ずーじゅるる、と浜面のなけなしの財布から奢ったジュースを惜しげもなく飲みつつ、絹旗は呆れた顔で言った。
「超認めたくないですが、浜面と滝壺さんは恋人同士」
「……はい」
「今日は何日か超分かってますよね?」
「…………はい」
店内を流れるメロディーはクリスマスソング、窓の外を見れば雪。文句のつけようがないほどのクリスマス・イブのイブ。つまり今日は12月23日である。いわば明日が本番という大事な日に、学園都市内のファミレスで浜面が滝壺とでなく絹旗と顔を合わせているのにはもちろん訳があった。
「財布の残金はどうなってるんです?」
そう、浜面の財布の中にはプレゼントらしいプレゼントを買えるお金が残っていなかったのである。本当はちゃんと滝壺へのプレゼントを買うためのお金は別に残してあった。財布に入れていたら使ってしまうと思ったので、ちゃんと銀行の口座に避けておくくらいに念入りに。だが、通販で買った鉄アレイその他(体鍛える用)の集金がごっそりと浜面の預金通帳から残高を奪っていったのだ。桁数が5桁から4桁に減っている画面に愕然としたのが昨日の話。そして絹旗に相談――つまりは1日で手っ取り早く稼げるバイトを紹介してもらおうとして今に至る。
 絹旗の視線から目を逸らしつつ、ぼそぼそと浜面は答えた。
「……辛うじて行けるくらいは」
「? 超どこに行くんです?」
「いや、だからホ」
「シャーラップ!!」
顔を赤くした絹旗が手にした映画のパンフレットで思いっきり浜面を殴りつける。
「これだから浜面は超浜面なんですね! バカでチンピラなだけじゃなくてエロ! どうせナニがホワイトクリスマスだとか性夜だとかそういうアホなこと超考えてるんでしょう!? バニーさんでクリスマス超迎える気でしょう!?」
誰もそこまでは考えていない、という否定の言葉を言う間も与えられず、パンフレットは浜面の頬をひたすら往復する。腕の疲れた絹旗が手を休めるまで、浜面の頬は実に20発以上のビンタを食らった。
「……いや、っていうか前にお前らそういう話してただろ。ファミレスで喋ってる時に」
「何を超言い訳を!」
「クリスマスは勝負パンツがどうたらこうたら言ってただろうが!」
半ば怒り気味に言うと、ぐっと絹旗が詰る。確かに数ヶ月前、『アイテム』のメンバーが集まっている際に珍しくそういう話になった。主に話していたのは麦野とフレンダと絹旗だったのだが、最後にぽつりと滝壺が呟いた言葉が印象的だった。すなわち、皆すごいね、と。浜面も全くといって良いほど同意見だった。
「アレか? それとも友達とクリスマスするのに勝負パンツ履くのか、お前ら? 違うだろ! そこは違うだろ!?」
半分くらいそうであってほしいという願望で叫んだ浜面に、いつもの調子をようやく取り戻したらしい絹旗は、ハァ、とあからさまなため息をつく。
「百歩譲ってそうだったとしても、今まで一つ屋根の下で暮らしてきた間に手を出せなかった超チキンの浜面が、クリスマスだからってどうこうできるとは思わないですね」
「…………」
全く持っての正論に浜面はテーブルに突っ伏す。確かにそうだった。今まで何度となくそういう機会はあったのに、最後の一線が踏み越えられないのがチキンたる浜面だった。
「大体浜面は超空気読めないですし、仮にクリスマスという年に一度の超安牌の日を選んだとしても上手くコトに運べるかどうか。それに、」
「それ以上言わないでくれ、致命傷になる……」
心に深い傷を負って半分涙目の浜面を無視して、絹旗はチョコレートパフェを注文する。ピクリと目の前の茶髪が動くのが分かったが、気力もないらしくどうこう言われなかった。
(……まぁ、超勝手にしててください)
心の中で呟きつつ、絹旗は数日前に思いを馳せる。いつものぼうっとした表情をほんの少しだけ恥じらいの色で染めた滝壺に、件の勝負パンツの話を相談された、などということを浜面は知らないだろう。教える気もない。
(このバカップルが)
絹旗は窓の外に視線をやる。
 まぁ、イブのイブでも、誰かと過ごせたのだから、よしとしよう。それがこんなにダメでバカでヘタレな、世界一の無能力者だったとしても。


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クリスマス限定第五話は浜滝(ただし滝壺出てこない)で
クリスマスなんだから、一組ぐらい下世話な話をしたって良いじゃない
まぁ実際にどうなったのかは大人の妄想力トレーニングです
この話の絹旗はちょっとだけほのかに浜面が好きかもしれないな


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