気がついたら朝だった。一方通行は枕元に置いていたケータイを手繰り寄せて日付を確認する。12/24、所謂クリスマス・イブ。巷の噂によると、何でもクリスマス本番よりも大切な日らしい。予想したよりも室温が低くて一方通行は身震いをした。カーテンを捲った窓の外には雪がちらついていた。昨日よりも幾分大粒の結晶が重力に従って舞い降りていく。
(………………チッ)
時刻は10時過ぎ。そろそろ起きて活動し始めないと間に合わない。一方通行はベッドサイドに置いていた杖を手にすると、部屋を後にした。


 打ち止めがクリスマスの予定を聞いてきたのは一週間ほど前のことだった。特に人付き合いのなかった一方通行にとって、これまではクリスマスなど普通の平日と何ら変わらなかったのだが、今年はそうも言ってられないらしい。キラキラした目で見上げてきたあのクソガキは――多分、サンタクロースとかいう愉快なメルヘンジジイを信じていることだろう。
(……メンドクセェ)
そう思っても一方通行がプレゼント探しを止めないのは、あの子供ががっかりする姿をあまり見たくないからだ。来年も再来年もクリスマスを祝える保証はない。ならば、祝えそうな今年はちゃんとしてやった方が良い気がした。
 とは言え――
「……………………」
このじろじろと遠慮なく人をねめつけてくる視線にももう大分慣れたが、それでもけして気持ちの良いものではない。ファンシーショップ、子供向けのオモチャ売場、どこに行っても浮いているのは自分でも分かる。だが時間がないのだから構ってはいられない。
「…………分かンねェモンだな」
手にした商品を元の棚に戻して、一方通行は呟いた。取り合えず手当たり次第に『それっぽい』店に行ってみれば何とかなるかもしれない、という一方通行にしては実に行き当たりばったりな計画だったが、全くと言って良いほど成果は上がらなかった。こんなことなら打ち止めを一緒に連れてきた方が良かったかもしれない。一瞬、他の同居人に相談する、というバカな手段が頭に浮かんだが、0.1秒で却下する。どう考えても玩具にされるに決まっている。
「…………あと3時間か」
打ち止めが指定したクリスマスパーティーとやら(多分家の中で少し豪華な食事を食べるだけだろう――いつも通り炊飯器で作られた食事を)は18時からだ。一方通行は頭の中に地図を思い浮かべると、×印を追加した。これで残っている目ぼしい店はあと2店舗しかない。一方通行は軽くため息をついて店の外へ出た。


 家へ戻ると、予想した通り少し豪華な料理が待っていた――ただし所々失敗してはいたが。流石にクリスマスメニューを炊飯器で作るには限界があったらしい。テーブルに所狭しと並べられた料理は皆揃ってどこか歪だったが、食べれないほどではなかった。クリスマスと言うだけあって、いつもの二割増しの賑やかさで食事は進む。やがて食事が終わると、大人たち二人は打ち止めにプレゼントを渡してさっさとリビングから出て行ってしまった。黄泉川はサムズアップを、芳川はにやにや笑いを残して。
 取り合えず流しに皿を持っていくと、それでもうやることがなくなってしまう。いつもは騒がしいくらいに話しかけてくる打ち止めは、何も言わずにもじもじしながら一方通行を見上げていた。
「…………何も用意してねェよ、悪かったな」
少し視線を外して一方通行は言う。そう、あれから更に探し回ったものの、ピンと来るプレゼントは見つからなかった。適当な物を渡す、というのも考えたが、最初で最後になるかもしれないプレゼントをそんな中途半端なものにするのは、何となく気が進まなかった――何も渡さないよりマシなのかもしれないが。
 だがため息をついて視線を戻した一方通行を特に気にする様子もなく、打ち止めは緊張した顔で一方通行に向かって背伸びをした。訳が分からず、ただ求められていることが何か分かったので少し屈むと、思ったより近くで打ち止めの声がした。
「……あなたも子供なんだから、プレゼント貰っても良いんだよ、ってミサカはミサカはびっくりした顔のあなたに言ってみる」
ふわり、と一方通行の首元を包んだのは妙に不恰好なマフラーだった。白と灰色の縞模様になったそれは、所々がほつれたり、幅が妙に広かったり狭かったりしている。打ち止めが自分で作ったであろうことは一目瞭然だった。
 そこでようやく一方通行は思い当たった。多分、今日のパーティーは打ち止めが一方通行のために用意したのだ。あの微妙に焦げた鶏肉や、お世辞にも上手いとは言えなかったケーキのデコレーションを思い出す。首筋のマフラーに触れてみると、柔らかい毛糸の感触がした。
「……下手クソ」
そう呟いて打ち止めの頭をくしゃりと撫でる。一方通行の口元は、ほんの少しだけ緩やかな弧を描いていた。


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クリスマス限定第四話は通行止めで
一方さんが迷いに迷ってプレゼントを決められなかったりとか普通にありそうだと思いまして
サンタは打ち止めでした的なオチ!
打ち止めは多分ミサカネットワークとかで手編みのマフラー最強説を吹き込まれたと見た
一方さんの服の柄に合わせてさり気にウルトラマン仕様なマフラーです


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