慈善事業も楽ではない、とステイルはため息をついた。煙草を咥えようとしてから気づく。そう言えば、ここは禁煙だったはずだ。
「ステイル、眉間に皺が寄っていますよ」
同僚の神裂がそう言って注意してきた。本来は無駄話も許されないところなのだろうが、ステイルも神裂も人の輪から外れたところに居た。少し離れたところから聞こえてくる、子供たちの笑い声。普段は厳かな雰囲気に包まれている教会も、流石にクリスマスとあっては多少明るく騒がしくもなるらしい。尤も、それはこの国特有の文化にも原因があるのだろうが。
「それにしても、似合わないですね」
「それはお互い様だろう」
お互いの格好を見て軽くため息をつく。ステイルも神裂も今日は真っ赤な衣装――すなわちサンタクロースの服、に身を包んでいた。何のことはない、教会にやってきた子供たちにお菓子を配るだけのボランティアだ。だが、二人が背負っている袋いっぱいに詰め込まれたお菓子は一向に減る気配がない。子供たちは皆、ステイルや神裂を避けて別のボランティアにお菓子を貰いに行く。
「……何がいけないのでしょう」
「……それが分かれば苦労はしない」
特段変な所作を取ったつもりもないし、いつもの三割増しくらいにこやかにしているつもりだ。なのに子供たちは教会の門から入ってきた後、ステイルたちを見ると一斉にビクッとして別の方向に走っていく。
 ちなみに子供たちが、ステイルの頬に入れた刺青らしきペイントと、こんな時にも手放さない神裂の刀にビビッているのは端から見ると一目瞭然なのだが、もう二時間以上、それに二人が気づく様子はなかった。
 と、
「今日はサンタさんなのですね」
誰かに話しかけられる。少し周りを見回して誰も居ないことを訝しく思っていると、くいっと服の裾を引かれた。改めて見下ろすと、小柄な女性の姿が見える。ステイルは彼女の名前を知らない。ただ、上条当麻の関係者らしいこと、こう見えて相当な年上であること、芯の強い女性であること――そして最近良く会う顔であること、くらいは分かっていた。
「えぇ……まぁボランティアで」
けして自分の趣味ではない、ということを主張しつつ、ステイルはどうしたものかと考えあぐねる。ステイルはこの女性が苦手だ。何事も真正面からストレートに言ってくるし、こんな成りのステイルを子供扱いする。彼女はステイルが十数年生きてきた中で、全く関わったことのないタイプの女性だった。
「クリスマスにもボランティアですか、偉いのですよー。上条ちゃんたちにも見習ってほしいのです」
彼女は案の定、そう褒めてくる。しかも別に彼女に何かしてやったわけでもないのに、ほんのりとその顔は嬉しそうだった。ますます調子が狂ったステイルは、さっさと彼女を引き剥がしにかかる。
「……貴女は、何かご用事ですか?」
「そうなのですよー……って、あ、しまった! 時間が!」
時計を確認した彼女は、慌てた様子できょろきょろと辺りを見回す。ここから見える建物は、教会と教会に良く似た形式の建物――居住棟である。用事というからには、今はもう半ば倉庫状態になってしまっている居住棟の方に行こうとしているとは考えにくい。
「向かって右手の方が教会です」
そうステイルが言うと、彼女は一瞬きょとんとした後、ぺこりと頭を下げた。そのまま少しだけはにかむような笑顔を浮かべて教会の方へ駆け出――して、数秒もせずに身を翻して戻ってきた。
「?」
訝しげに思ったステイルは首を傾げた。だがそんなステイルの所作を気にする様子もなく、彼女は何かを差し出してくる。訳が分からずに戸惑ったまま固まっていたステイルの手を、彼女は強引に引き寄せて開かせた。
「頑張った子にはご褒美なのです」
にこっと笑った彼女がそう言って手のひらに乗せてきたのはこの国では良く見る飴の包装紙――イチゴミルクのキャンディーだった。別に好きでも嫌いでもないものを渡されても反応に困ってしまうのだが、気がついた時にはもう彼女は数メートル先に走っていってしまっている。ステイルが顔を上げたのと、彼女が振り返るのが同時だった。彼女は一度だけ大きく手を振ると、今度は振り返らずに教会の方へ消えていく。後に残されたのは、手のひらのキャンディーの感触だけ。
「……ロリコン」
事態についていけずにため息をついたステイルの耳を、ずっと置いてけぼりにされていた神裂の冷静な一言が打った。


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クリスマス限定第三話はステこもで
ステイルサンタとかマジ似合わなさそうだな…つか良く考えればステイルも子ど(ry
小萌先生がステイルを甘やかすというか子供扱いすると萌ゆる
っていうかステイル、原作では確か小萌先生の名前知らなかったよね…?(不安


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