これぞ王族のテーブル、という縦に細長いテーブルに着席していたのは、女王・エリザード、第一王女・リメエア、第二王女・キャーリサ、第三王女・ヴィリアン。つまりは誰一人欠けることなく、英国王家の夕食は進んでいた。いつになく会話の少ない食堂に広がった重々しい沈黙を破ったのは、エリザードの一言だった。
「……ハァ、嘆かわしい」
「意味が分からないし」
心底呆れ返った様子でため息をつくエリザードに、キャーリサは不振の目を向ける。さっきから珍しく黙りこくっていたかと思えばこれだ。
「いや、だってクリスマスなのに三人娘全員揃ってるってどういうこと? 誰も男の一人もいないのか、嘆かわしい」
「男の人数が女の価値を決めるとは思いませんけれど」
やれやれ、と肩を竦めるエリザードに、いつも通りの神経質そうな声でリメエアが反論する。その声音は普段と何ら変わらないように思えるが、聞きなれた家族だからこそ分かる苛立ちが微かに混じっていた。確かに、いくら王女と言えど年頃の娘でもある。破滅的に器量が悪いわけでもないのに英国王家では今年も全員揃ってクリスマスを迎えていた。こうなると、食堂に飾られた大げさなクリスマスツリーも何だか滑稽なものに見えてくるから不思議なものだ。エリザードは詰らなさそうな顔で、メインディッシュだった鶏肉を突付いた。
「イギリス中がクリスマスだサンタクロースだで盛り上がってる中、私たちだけこんな寒々しい食堂で『ドキッ!女だらけのクリスマス』とは……」
「そのネーミングセンス……どーでもいい上に古いし」
ごちそうさま、と言わんばかりに口元を拭ったキャーリサが席を立つ。きょとんとした顔でエリザードは立ち上がった娘を見上げた。
「? どうした? これからが本番だぞ。今年のクリスマスケーキは、」
言いかけたところで、決まりが悪そうにヴィリアンも立ち上がる。
「えぇと、母君……私もこれで、」
返事も聞かずにさっさと食堂を去っていくキャーリサに続くように、ヴィリアンもそそくさと食堂を後にする。

 残されたのは訳が分からずぽかんとしたままのエリザードと、事情を察したのであろう全く動じた様子のないリメエアだけだった。

「え、あれ……もしかして私行き遅れか!? そうなのかっ!?」
「…………」
何も言わずにポンと母の肩に手を置くリメエア。エリザードは頭を抱えながら叫ぶ。
「ノォオオオオオ!! 女の家族愛って儚いもんだな! ……お前だけが真の我が娘だよ、リメエア!」
「勝手に一緒にしないでくださいな」
席を立って抱きつこうとしてくるエリザードをするっと交わしたリメエアは、携帯電話を取り出した。食後の最初の約束は、宮殿からそう遠くない公園のイルミネーションの下。身分も明かさず付き合っている仲間達にいつもはこういう『サービス』はしないのだが、クリスマスなのだし、少しは羽目を外しても良いだろう。リメエアはそろそろ出れそうだ、とメールを一本打つ。呆けた様子のエリザードに一礼すると、リメエアも食堂を後にした。
「ちょ、ホントに一人!? 一人かよ!? ノォオオオオオ!!!!」
しばらくしてから上がったエリザードの咆哮を背にしながら、リメエアはこう思った。流離っているウィリアムはともかく、王宮に仕えている騎士団長はしばらく死ぬな、と。


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クリスマス限定第一話は英国王室で
そのうちキャーリサが騎士団長とくっつく、
あるいはせめて騎士団長を相棒にしてくれないかと切に願っております
多分騎士団長(ノリノリ)とウィリアム(訳が分かってない)がサンタコスで待ってるよね……!


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