同情した自分が間違いだった。うんざりとした顔で一方通行は辺りを見回す。
 この間から降り続いていた鬱陶しい雨が久々に止んだ――なので打ち止めが、買い物に行こう、という考えに至ったのは無理のないことだとは思う。一方通行もいい加減家の中に篭りきりなのには飽きていたし、ずっと閉鎖空間に二人きりなのが何だか落ち着かなくもあった。
 だが――
「……あンの、クソガキ!」
机の上に書置き一つ――それに一方通行が気づいたのは、姿が見えなくなった打ち止めを隠れ家の隅々まで探し回った後のことだった。子供特有の紙面からはみ出さんばかりの大きな文字で書かれた『ミサカはお買い物へダーッシュ!』という能天気な文面は、張り詰めていた一方通行の心から緊張を奪い取るのに十分だった。
(…………出て行ってからどれくらい経ってンだァ? )
普段から起床時間の遅い一方通行が今日起きたのは、10時過ぎのことだ。打ち止めが普段起きているのが、大体その1時間前というところ。今日は晴れる、という情報をどこかから仕入れていたのなら別だが、まずいつも通りの時間に目覚めたと思って間違いはないだろう。窓の外を見た打ち止めが思い立って準備をしたとしても、30分はかかると見て良い。
(大体9時半から10時前ってトコか……今が11時過ぎ……チッ、イラネェ時間食っちまったな)
ちらりと視界の端の時計を確認する――と、一緒に目に入った光景に一方通行は顔を顰めた。ここのところ無造作に床の一角に置いていたコートが一着分だけ消えている。部屋の中を探し回っていた時に気づくべきだった、と一方通行は舌打ちした。思ったより、動揺していたらしい。
「…………まァ、そのうち帰ってくンだろ」
そう呟いて、一方通行はテーブルの傍へ腰を下ろし、頬杖をついた。良く考えれば、一人きりなのは久しぶりだ。あのクソガキに会って以来、マンションで同居、グループ行動、とらしくない日々を送っていたのを思い出す。
(………………気楽なモンだ)
昨日は一度夜中に打ち止めに起こされていた――理由は、一人寝が怖いから。黄泉川のマンションに住んでいた頃はきっと黄泉川か芳川に甘えていたのだろうが、今はもう打ち止めの傍らには一方通行しかいない。もちろん提案は一蹴したが、その代わり打ち止めが眠りにつくまでずっとついててやる羽目になっていた。昨夜の睡眠時間は4時間を切っている。
 もう一眠りするか、と一方通行は移動しようと立ち上がる。
「ッ、」
足がテーブルにぶつかり、打ち止めの書置きが床へひらひらと落ちていった。拾い上げた紙をもう一度見る。紙面一杯に書かれた文字――元気な、否、元気を取り戻した子供。
「………………」
一方通行はため息をついた。


 最初に見つけたのは雑踏から見え隠れする大きな紙袋だった。一瞬浮いているのかと思ったが、どうやら抱えるのが難しいくらいに大きな荷物になってしまっていたらしい。一方通行は足早になりかけた歩調を緩めつつ、なるべくさり気ない様子で声を掛ける。
「オイ」
紙袋が揺れて、端からひょっこりと打ち止めが顔を出した。
「あ、良く分かったね、ってミサカはミサカは……荷物を持ってくれるかなー、ってあなたに期待してみたり!」
「半分だけならな」
嬉しそうに言う打ち止めに毒気を抜かれた一方通行は、彼女が持っていた紙袋の2/3を奪い取る。打ち止めは手元に残った紙袋を抱えなおしつつ、一方通行の横へ並んだ。
「あのなァ、暇だからって勝手にその辺うろちょろすンじゃねェよ、クソガキ」
存外大人しくついてくる打ち止めを見下ろしながら言うと、確信めいた顔で見上げてきた打ち止めは満面の笑みを浮かべた。
「でも、どこに居ても、あなたはミサカのこと守ってくれるよね、ってミサカはミサカは、」
「アホ」
打ち止めの言葉を遮って、ぐい、と額を捕まえると、そのまま彼女を引き寄せる。打ち止めの小さな体は、それだけでぐらり、と一方通行の方に倒れこんできた。どうしたの、と見上げる視線で問いかけてくる打ち止めから目を逸らしつつ、一方通行は言う。
「…………近くにいた方が守りやすいに決まってンだろォが」


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ロシア逃亡中……つまりはハネムーンですよね! 血塗られてるけど!
半分持ってと言われて全力で荷物を持つ一方さん……原作でも普通にありそう
打ち止めの荷物の内容についてはweb拍手で


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