しばらく、見詰め合ってしまった。
 とはいっても、甘い雰囲気というより、気恥ずかしいというか、何も言葉が出てきてくれない状態、という方が近い気がする。昨日の記憶は、熱に浮かされたようだけれど、それでもしっかりと残っていた。部屋のゴミ箱を確認すればより明確な証拠が出てくることだろう。
「おはよう、ってミサカはミサカは挨拶してみる」
「…………オハヨウ」
朝から襲ってきたのは、やってしまった、という後悔が半分と、なるようになれ、という諦めが半分だった。



 取り合えず起き上がって服を身につけた一方通行は、ベッドの左半分に向かって言う。
「オマエは起きねェのか」
いつまでも布団に潜り込んだままの打ち止めから、答えは返ってこない。訝しく思ってから、そう言えば、女というのは特に最初の最中・事後は体に響くものだ――身も蓋もなく言ってしまえば、処女膜とやらが破れると痛いらしい――という知識を、一方通行は思い出す。
「体痛ェのか」
「…………大丈夫、ってミサカはミサカは答えてみたり」
のろのろとベッドの上で起き上がった打ち止めに、一方通行は彼女のキャミソールを投げてやった。下着はさっき床から拾い上げた時点で、思ったより『酷い惨状』になっていたので、洗濯機行きが決定している。ところどころが赤くなっている肌がキャミソールで隠れていくのを見て、少し落ち着いた一方通行は、打ち止めに改めて声を掛けた。
「歯ァ磨いてくる。オマエも行くか?」
「……ミサカはもう少し休んでる、ってミサカはミサカは……あっと、違うの、別にしんどいわけじゃなくてね、もう少し眠いかな、ってミサカはミサカは慌てて言い直してみたり!」
「なら寝てろ」
多分、まだ体は痛むのだろう。一方通行は打ち止めを置いたまま、床に落ちていた『洗濯物』を拾ってから、廊下に出る。時刻はもう昼過ぎらしく、窓から入ってくる日の光も随分と乱暴だ。
「…………あーァ」
何にともなくため息をついて、一方通行は洗面所に向かった。



 打ち止めは一方通行が部屋から出て行ったのを見てから、そろそろと布団の中から這い出した。
「何であんなに平然としてるかなぁ、ってミサカはミサカは恥ずかしさ全開の気持ちであの人に不満を言ってみたり」
目が覚めて、一方通行と見詰め合ってしまった時は、あぁ、この人も動揺してるんだな、と思った打ち止めだったが、その後の一方通行の行動はごくいつも通り。裸でもあったし、ベッドから出るに出られなかった打ち止めとは対照的だった。
「…………夢じゃないんだなぁ、ってミサカはミサカはもう一度ぱったりとベッドに倒れこんでみる」
正直に言うと、体はまだ少ししんどい。変な体勢を取ってしまったのもそうだけれど、やっぱり想像以上に痛かったし、想像以上に後を引くものだった。腰の辺りが熱を持ったようにじんじんとしていて、動くと時々ずきりと痛みを返してくるのだ。打ち止めはなるべく楽な体勢を取ろうと仰向けになった。その動きで捲れた服から、赤い跡がちらりと覗く。
「わわっ、ってミサカはミサカは慌てて服の乱れを直してみる!」
体のあちこちには昨日を想像させる印が残っている。けれど、服で全て隠れてしまうところを見ると、一方通行はそこまで計算していたのだろう、あの最中に。熱に浮かされるようで、感覚に追われるだけで、何も考えられなかった自分と違って、多分そういう余裕があったのだ。
「……ズルイ、ってミサカはミサカは呟いてみる」
顔を赤くしたまま、打ち止めは枕に顔を埋めた。



 歯を磨き終わった時に、一方通行は気がついた。服の裾を引っ張って調節してみるが、どうにも上手くいかない。
「…………隠れねェじゃねェか、あのクソガキ」
肌の白い自分にとって、赤は目立つ色だと一方通行は知っている。これまで血を流す機会は多かったし、相手からの返り血を浴びたことだって両手で数え切れないほどあった。けれど、この跡はそういったものとは異質だ。
「しばらく消えそうにねェなァ……めンどくせェ」
赤い跡の残る首筋に、そう言えば昨日噛み付かれたな、と思い出す。この色の残り具合だと、結構きつく噛み付かれたようだ。多分、相当痛かったのだろう。そんなことさえ、あの時は気づかなかった。

 つまり、そのくらいには夢中になっていたのだ――あの肌に。

「ッ…………」
唐突に昨日のことがフラッシュバックして、鏡の前の自分の顔が赤く染まっていくのが見えた。思わず座り込んでしまった一方通行は、そんな自分の行動に舌打ちする。朝、口から何も言葉が出てこなかった一方通行に、おはよう、とごく普通に挨拶してきた打ち止めを思い出す。
「ガキの癖に、余裕だったよなァ……なンだありゃ」
一方通行は呟いた。


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いきなりすっ飛ばして事後が来たよ…
どこまで斜め上を走る気なんだよ>自分
こういうのが嫌いな人すいません…
この二人がこういう関係になるとしたら、ちゃんと段階を踏んでからであってほしい


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