片方の手には、中途半端に余ったチケットが3枚。もう片方の手にはいつも通りの杖。一方通行は軽く肩を鳴らしながら、深々とため息をつく。どこかのネズミの国ほどとは言わないが、無駄に最先端技術を惜しみなく使用しただけあって、目の前の建物はちょっとした雰囲気を醸し出している。だが入りたくなるか、と言ったら答えはノーだ。
「きゃあああああああ!!」
 ――もちろん、どこかのクソガキが叫び声をあげていたとしても、だ。



『先ほどのホログラムはろくろ首ですね、とミサカ10032号は具体的な映像資料を交えつつ説明を』
「……せ、説明は良いから、怖くなくなる方法を早く教えて!ってミサカはミサカは、な、泣いてないもん……!!」
『人という漢字を三回書いて飲み込めば怖くなくなるはずです、とミサカ19090号は実しやかな嘘情報を送信します』
嘘情報はいただけないが、今はミサカネットワークの騒々しさがありがたい。打ち止めは目の端に留まっていた涙を拭うと、また一歩足を進める。
 狭い通路は続いていた。入ってからかれこれ五分は経っているだろうか――否、十分、十五分かもしれない。お化け屋敷だから当たり前なのだが、全体的に暗いのに申し訳程度に足元だけが照らされているのが逆に不気味で、それが打ち止めの歩を鈍らせていた。ついさっきまで文句を言いつつ傍らを歩いてくれていた彼は、今は隣にいない。
「薄情だなぁ、ってミサカはミサカはため息をついてみたり」
『薄情というよりは、周りが悪かったのでは、とミサカ13577号は指摘します』
「? 周り?ってミサカはミサカは疑も、っひゃあああああああ!!!!」
首筋にひやりとした感触。
『蒟蒻といういかにも古典なやり方が逆に新鮮ですね、とミサカ10032号は感嘆します』



 一方通行は呆れ交じりで掴んだ蒟蒻を見下ろした。つい数分前に聞こえた声のことを考えると、おそらく打ち止めはここで悲鳴を上げたのだろうが――
「…………何でンなモンにひっかかンだ?」
そう思うくらいに、仕掛けはお粗末なものだった。まず蒟蒻はべちんとその辺の柱に当たって音を立てていたし、何より動きがゆっくり過ぎる。方向さえ捉えてしまえば、いくらでも避けることが可能だ。学園都市の技術の粋を注いで作ったのは、どうやら妖怪のホログラムだけらしい。確かに入り口辺りの映像はそれなりに迫力があったが、それも慣れてしまえばどうということはなかった。そしてこの蒟蒻やらなにやらに至っては、一言で言うと、
「コドモダマシ」
蒟蒻を放り投げると、一方通行は再度歩き始める。その足はさっきより心なしか速い。

 それでも――あんなものでも、多分怖かったのだろう。
 彼女は、まだ子供なのだから。

 様子を見に来てしまう辺り、自分でもバカだとは思う。建物に入る前に大人たちが見せたニヤニヤ笑いを思い出して、一方通行は舌打ちした。



「オイ、」
「ひゃ、ひゃあああああ……あ?」
頭を抱えて蹲った打ち止めに降ってくる声――それは、とても聞きなれたもので。打ち止めは恐る恐る視線を上げる。
「あァ? 何怖がってンだよ、オマエ」
一方通行が呆れた顔をして立っている。
「……どうして?ってミサカはミサカはあなたを見上げてみる」
一瞬だけ目を逸らした後、一方通行は答えた。
「……チケット余らしてもしょうがねェだろォが」


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うちの一方さんは保父さんになった方が良いんじゃないのか…
心配性でお兄ちゃんな一方通行と遊園地に来てみたよ
ホントは手繋ぎ通行止めとかしたかったんですけど、上手く繋いでくれず


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