彼女がいなくなったら、なんて――



 世の最先端技術というのは、本当に呆れたものだと思う。何せ、馬鹿馬鹿しいことに、あまりに『金をかけすぎる』。
 何とか科学館と名づけられたこの建物にしたってそうで、やれ5階建てのビルに匹敵する高さのホールを丸々使った展示やら、だだっ広いだけの空間に所狭しと置かれた展示やらが並んでいる。これでいざ見てみれば『コドモダマシ』のモノが多いのだから笑うしかない。

 一方通行はため息を吐きながら、すぐ横の壁にあった館内の案内図を眺めた。ようやく半分、というところか。ここに来るまでにかけた時間を考えて、うんざりする。心なしか杖をつく腕が重くなった気がした。
「うわぁ、おもしろい!ってミサカはミサカは驚いてみたり」
……だが、前を行く彼女にとってはそうでもなかったらしい。なるほど、『コドモダマシ』。子供から見てみれば楽しいものなのだろう。
「あンまり走り回るンじゃねェぞ、クソガキ」
さっきから目に入るものまで走って行っては声を上げる打ち止めに、一方通行は釘を刺した。それでも、聞こえないフリなのか、本当に聞こえていないのか、彼女は次の展示まで走っていってまた騒ぐ。
「はやくはやく、ってミサカはミサカは不機嫌そうなあなたに手招きしてみる」
周りにあまり客がいないのが救いだが、それにしたって、声が大きすぎる。一方通行は少し急ぎ――かけて、歩調を元に戻した。最近気がつけば打ち止めに振り回されていて、それがどうにも居心地が悪いのだ。
「? どうしたの、ってミサカはミサカは何だか変な顔したあなたに尋ねてみる」
「ッ……なンでもねェよ」
思わず口から漏れてしまった舌打ちは、聞こえなかっただろうか? それでも平然を装って手招きをする打ち止めに追いつくと、一方通行は彼女が指さす展示の説明に目を向けた。
「……くだらねェ」
「そんなことないよ、すごいじゃない、ってミサカはミサカは身振り手振りも使って精一杯主張してみたり」
「『コドモダマシ』」
一方通行は呆れて呟いた。彼女が興奮しているのは、『未来予想図』というタイトルのついた展示だった。カメラが内蔵されたディスプレイの前に立つと、未来の自分が映る、というありがちなインチキだ。何やらそれっぽい説明が色々書いてあったが、はったり以外の何物でもないだろう。よくもまぁこの学園都市にこんなウソ科学そのものが展示されているものだ、と一方通行は嘲笑する。打ち止めはそんな彼の考えが分かったのか、腰に手を当ててジト目で一方通行を見上げてきた。
「あなたって時々本当に夢がないなぁ、ってミサカはミサカは呆れてみる。ほらほら、そんな顔しないで一緒に映ろう、ってミサカはミサカは強引にあなたを引っ張ってみたり」
「ひっぱンな、オイ!」
小さな手に捕まえられて全体重で引っ張られたせいで、一方通行はかなり勢いよくディスプレイの前に躍り出てしまった。思わずディスプレイの方に目をやってしまうが、何も映っていない。
「あれ、映らないね、ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」

 何も映っていない――それにどきり、とする。

 打ち止めの身長は低い。なので、カメラの位置の関係上、彼女の全身は映らない――それでも頭の上部分くらいはひっかかるであろうことは、予想が出来た。なのに、自分だけでなく彼女も――映らない。
 映らない――それは、
 それは、

「あ、故障中だって、ってミサカはミサカは残念がってみる」
その打ち止めの声で、一方通行は思考が止まっていたことに気づいた。少し瞬きをしてから、強引に注意を打ち止めに向ける。彼女は何でもない様子で、一方通行を見上げていた。
「とびっきりの美人に映るはずだったのに、ってミサカはミサカは悔しがってみたり」
「……さっさと回ンぞ」
彼女の手を引く手の力が、少し強くなってしまったことを、一方通行は無視した。




 彼女がいなくなったら、なんて――考えもしない。
 いなくなるのは、自分だけで良いのだ。

 そう、一方通行は思う。
 思うけれど、少なからず動揺した自分に、一方通行は驚いていた。
 理屈は分かっているのだ。分かっているのに、分かっているはずなのに、それでも一瞬だけ見え隠れした自分の弱さに、一方通行は唇を噛んだ。
 彼女がいなくなったら、という可能性すら、受け入れがたい自分を――噛み殺すように。


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精神的に強いのはどう考えても打ち止めな気がするのは私だけですか?
一方さんは打ち止めが死んだら発狂しそうな気がする…

当サイトは基本的に一方さんと打ち止めがお互いを特別してたらそれで良いのですが、
最初っからこのテイストだとどうしようもないな! 趣味丸出し!


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