最初の1週間は、待っていられた。次の1週間はどうして良いか分からなくて、凹んでしまった。そしてその次の1週間で、いてもたってもいられなくなった。打ち止めが一方通行の部屋を突き止めたのは、彼が黄泉川の家を出て行ってから1ヶ月してのことだった。

『もうこれで学園都市中に張り巡らせた大捜索網を拡大しなくて済むのですね、とミサカ10039号は抑えきれない喜びを顕わにします』
『長かった上司の我侭もようやく終了ですか、とミサカ19090号は見返りに何を要求しようか考えます』
『どうやらこのマンションの20階らしいですよ、とミサカ13577号は現場の写真を送り、上司に離脱命令を要求します』
『それよりも捜索中に見つけた甘味処がなかなかの名店でしたよ、とミサカ10032号は他のミサカたちに報告します』
『なぜ甘味処が名店だと確かめることが出来たのですか、とミサカ13577号は尋問体制に入ります』
『……薮蛇でした、とミサカ10032号は現在位置のデータのジャミングを始めます』

 そこからはいつもの騒がしいミサカネットワークだった。その会話を縫って打ち止めが離脱しようと礼を告げると、1万人1万様の「しょうがないなぁ」が返ってくる。一方通行がどこにいるか知りたい、打ち止めのそんな我侭な願いを、しかし呆れながらも妹達の誰も拒絶しなかった。皆が手伝ってくれなければ、一方通行の隠れ家どころか足取りを掴むのすら、もっと時間がかかっただろう。
 手伝ってくれた学園都市の妹達にはまた改めて礼を言おう、そう思いながら打ち止めは送られてきたデータを元に一方通行の隠れ家の一つへ向かった。意外なことに、黄泉川のマンションからそう遠くはない高層マンションがそれだったらしい。整えられた花壇や広い駐車場から、いかにもファミリー向け、といった印象を受ける。よくよくマンションの壁面の色を見てみると、その緑がかった灰色には見覚えがあった。ベランダから見える、一際高い建物がそれだ。
(まさかベランダから見える範囲にある建物に隠れてるなんて、ってミサカはミサカは探偵ぶりを反省してみる)
 見上げていると首が痛くなってきたので、打ち止めは気を取り直してエントランスへ向かった。
(なかなか順調かも、ってミサカはミサカは鼻歌なんか歌ってみたり!)

 だが打ち止めの鼻歌は1分後には途絶えてしまっていた。
 ガラス張りの広いエントランスの真ん中に置かれていたのは、侵入者を拒む機械式の番人――つまりは
「…………おーとろっく、ってミサカはミサカは唸ってみたり」
一方通行の部屋の番号は分かっているが、そもそも自分や黄泉川たちから離れるために出て行ったのだろう彼が簡単に会ってくれるとは思えない。寧ろ居場所がばれたことを知ったら、一方通行はすぐさまこのマンションを引き払ってしまうだろう。となれば、
「やっぱりここはこっそり潜入!ってミサカはミサカはワクワクしてみる!」
打ち止めは小さな拳を振り上げて飛び跳ねる。
『それは所謂不法侵入では、とミサカ10501号は口を挟みます』
『上司は恐らく半分以上冒険気分です、とミサカ17000号はため息をつきます』
ミサカネットワークを介して伝わってくる妹達の批難を意識的に聞き流して、打ち止めは改めてオートロックのパネルに向き直った。機械が幾分高めの位置に設定されているので、操作しようとすると少し背伸びをしなければならない。どうにもこうにも不安定なポーズになってしまうので、取り合えず体重を半分くらい機械に預ける。
『番号に心当たりはあるのですか、とミサカ14333号は上司に質問を投げかけます』
「うーん、取り合えず桁数が分からないとどうしようもないかなぁ、ってミサカはミサカは途方にくれてみる」
『そう長くはないのが相場であることを考えて、4桁から順に確かめてみてはどうですか、とミサカ19900号は欠陥電気によるハッキングを薦めます』
「最初は推理するのがミステリーのお約束!ってミサカはミサカは試しに番号を押してみたり」
妹達の意見を敢えて無視して、取り合えず打ち止めは一方通行の誕生日を入力してみた。だが返って来たのは「番号を正確に入力してください」というハズレのアナウンス。次に自分の製造日を入れてみたがこれまたハズレ。
『いつまで持ちますかね、とミサカ11899号は呆れつつ、上司の根気が30分しか続かない方に賭けます』
『甘いですね、恐らく15分が限度でしょう、とミサカ15113号は一口乗ります』
『……意外と45分くらいでは、とミサカ14014号は主張します』
「あ、諦めないもんね!ってミサカはミサカは……って、ちょっと賭ける人多すぎ!ってミサカはミサカは咎めてみる」
『3分経過、5分派には不利な展開ですね、とミサカ18829号は舌打ちします』

 結局、20分に賭けた妹達の勝利だった。
「うぅー、もう思いつく番号がないよ、ってミサカはミサカは諦めてみる」
『意外と根性がありませんね、上司を信じたのが間違いでした、とミサカ14014号は絶望します』
『それでこそ上司です、とミサカ17203号はホクホク顔でお札を数えます』
『……この恨みはけして忘れないでしょう、とミサカ11899号は歯軋りしつつ軽くなった財布を見つめます』
どうこう言われているのをこれまた無視して、打ち止めはパネルに向かって能力をコントロールする。程なくして一方通行の部屋のオートロックの番号の解析が始まった。一般的なオートロックは4桁が相場だが、どうやらこのマンションのオートロックはそれ以上の桁数のようだ。4桁の数字の解析が全て終了したところで、次は5桁の解析へ移る。
(うーん、4桁じゃなかったんだ、ってミサカはミサカはちょっと安心してみたり)
4桁は日付や電話番号など多くの番号で使われる組み合わせだ。自分の誕生日も電話番号も当てはまらなかったので哀しくなってしまったが、どうやら誰か他の人間の番号でもなかったらしい。打ち止めは、ほっとため息をつく。
 それから程なくして解析が終了した。時間から考えて恐らく5桁だったのだろう。打ち止めはパネルに表示されている数値を見ようと、もう一度背伸びをした。
「5桁なんだー、ってミサカはミサカは……、」
 そこで、打ち止めの言葉は止まってしまった。

 パネルに踊っていたのは、『20001』――それは、よく見知った、打ち止めの数字だった。

 ……改めて考えてみれば。一方通行の隠れ家は20階の1号室だったりする。イチイチ覚えるのが面倒で『たまたま』この番号にしたのかもしれないのだけれど。

『? どうかしたのですか、とミサカ10032号は急に思考を停止した上司に声をかけます』
『どうやらナンバーは分かったようですね、とミサカ17203号は状況を把握します。早速中に入らないのですか、とミサカ17203号は尋ねます』
訝しげに尋ねてくる妹達に、打ち止めは首を振った。
「……うぅん、今日はいいや、ってミサカはミサカはきっぱりすっぱり回れ右!してみる」
『なぜですか、とミサカ16836号は訝しげに尋ねます』
そう問われた打ち止めは、顔一杯に笑顔を浮かべて答えた。
「だって多分、あの人から会いに来てくれるもん、ってミサカはミサカは確信してみたり!」


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いつの話なのかとか! 気にしない!
打ち止めがハッキングできるのか! とか! 気にしない!
ホントは一方さん大学生とかで未来捏造にしようかと思ったんですが
オートロックの機械にギリギリ届くぐらいの打ち止めが書きたくなったので良く分からん時系列に
例の13巻〜15巻の遠距離恋愛の時期、1ヶ月あったのか微妙ですよね……
あ、あと一方さんweb拍手でデレますよ、と


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