「お腹が空いたよー、ってミサカはミサカはさっきから飲んでる缶コーヒーのせいで満腹中枢が微妙に刺激されていて全く空腹感を感じてないかもしれないあなたに話しかけてみたり」
「…………あァ? もう1時過ぎか」
取り合えず残っていた中身を飲み干してから、一方通行は空き缶をゴミ箱へ放る。ストライクだった。


 その日は黄泉川も芳川もちょうど留守にしていたので、居候二人だけが部屋に残っていた。時刻はそろそろお昼時……を過ぎる頃。朝からパンしか口にしていなかった打ち止めはぱったりとソファに倒れこんだまま不満そうにしている。
「ねぇねぇ、あなたって何か作れる? ってミサカはミサカはほんのちょっぴり期待を込めてあなたの方を見てみる」
「作れるように見えンのかァ?」
言われてみれば空腹な気もするが、どちらかと言うと小食な一方通行は元々あまり食事時を気にする性質ではない。この家では主に、育ち盛りの打ち止めや警備員の黄泉川が食事のタイミングを支配している。
「…………うぅー、喋るだけカロリーが消費されてもうミサカはダメかもしれない、ってミサカはミサカはお腹が鳴るよー」
空腹のリミッターを越えたのか、打ち止めの言動が多少怪しくなってきている。言われなくても、さっきから打ち止めのお腹がグーグーと盛大に鳴り続けていたが、それをデリカシーと言う名の下に無視して、一方通行はキッチンへ向かった。だが、この家でも全く料理をしない一方通行は、当然ながらどこに何が収納されているのか良く分かっていない。
「なンもねェな……」
結局見つかったのは、束になったスパゲティだけだった。レトルト食品の一つや二つ、どの家庭でも置いているものだ、という法則は、どうやらこの家には当てはまらなかったらしい。そもそも缶詰類すら引き出しのどこを開けても見当たらない。
「食べ物!? ってミサカはミサカは今にもあなたの手まで食べれるくらいの勢いで食いついてみたり!」
「そのままじゃ食えねェっつの」
一方通行は冷蔵庫の中を確かめてみるが、パスタに使えるものとして一方通行が判断できたのはタマネギくらいだった。残りは大根にレタスなどなど。ちょっと頭を捻ればパスタの具として美味しくいただけるのかもしれないが、生憎とそのちょっと頭を捻るために必要な料理の知識に欠けている一方通行である。
「でもでも、スパゲティ、ってこないだヨミカワが作ってくれたアレだよね? ってミサカはミサカはあの時のご飯の味を思い出してよだれがじゅわっと出てきたり!」
さっきまでのぐったり具合はどこへやら、という様子で打ち止めはスパゲティ片手に立っている一方通行の周りを飛び跳ねる。つい一週間くらい前に黄泉川が作ったのは確かボンゴレビアンゴだったか。炊飯器でパスタを作っている光景というのはあまり思い出したくないものだ。
「でで、どうするの? どうするの? ってミサカはミサカはわくわくを隠さない顔で聞いてみる」
「……茹でンじゃねェの?」
料理と縁のない一方通行は既に疑問系だが、同じくらい料理スキルの低い打ち止めには気にならなかったらしい。万歳のポーズを取って一方通行の腰の辺りに抱きついてくる。
「何ができるのかなぁ、ってミサカはミサカは目をきらきらさせながらあなたを見上げてみたり!」
「……さァなァ」
鬱陶しそうに腰に回された手をパスタを持っていない手の方でぐい、と外しつつ、一方通行は考えをめぐらせた。



「こ、これはこれで美味しい気がするよ、ってミサカはミサカはあなたのことを慰めてみたり!」
「うるせェ」
「めんつゆパスタって言うのもなかなか斬新で他に滅多に見られないねー、ってミサカはミサカは、」
「黙って食えってンだよ」
ずるずるとパスタを飲み込んでから、一方通行は言う。結局パスタを茹でるだけ茹でてみたものの、どうして良いのか分からなかったのだ。加減が良く分からなかったので取り合えずあるだけ投入してしまったスパゲティは、とても二人では食べきれない量になってしまった。テーブルの真ん中に大量のスパゲティが鎮座していて、めんつゆだけでそれを食べている姿というのは傍目から見るとシュールなのだろうが、そこは食べている本人たちはあまり気にしていない――味はともかくとして。
 少し冷め気味になっている方が食べやすいらしく、茹で上がった当初より多少扱いやすそうに打ち止めはフォークをパスタの山に突き刺していた。
「あ、もしかしてこれって、あなたの初めての手料理? ってミサカはミサカはしみじみ感慨深く頷いてみたり」
「こンなンが手料理かよ」
気がついたように言った打ち止めに、一方通行は呆れたように返す。さっきから黙々と食べ進めてみたものの、5分であまりの味の一辺倒さに飽きてしまっていた。けれど、そんなスパゲティを打ち止めは嬉しそうに食べている。その様子を何とはなしに眺めていると、ふと、顔を上げた彼女と目が合った。にこにこしながら、じゃあ、と打ち止めは一方通行に話しかける。
「今度はちゃんと作ってくれる? ってミサカはミサカは聞いてみる」
「甘えンな。っつか料理なンて二度としねェよ」
もぐもぐと口にスパゲティを詰め込んだまま喋る打ち止めに、一方通行はばっさりと言い捨てる。けれど、打ち止めはめげない。
「じゃあ、これがあなたの最初で最後の手料理なんだね、ってミサカはミサカは少し嬉しく思ったり」
あぁ言えばこう言う、そんな打ち止めの無邪気なまでの素直さを誤魔化すように、一方通行は真ん中に置いてあった皿を傾けた。
「そう言うンなら最後まで食い切れよォ?」
「そ、それはなし! ってミサカはミサカは、あーっ、残りを全部ミサカのお皿に入れるなんてあなたは何て鬼畜なの!? って、ミサカはミサカは全力で抗議してみるー!!」


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上条さんと好対照、ってことで、多分一方さんは料理が出来ないと見た
5巻の描写だとレトルト食品生活っぽかったしなー
いや、でも小器用な気はするので、案外さらりとこなしてしまう……のか?
二人で料理編とかも良いなぁ…妄想はつきないぜ


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