「とうまー、お腹が空いたんだよー?」
インデックスの声が部屋に響き渡る。上条はベッドの上で目を瞑って壁の方に向きながら、自分にこう言い聞かせていた。
(…………いやいや、ここは我慢、我慢ですよ。釣られていつも起きるからインデックスの我侭に振り回されるわけで、寝たふりを決め込んでおけば、インデックスだって大人しく引き下がる……いや、引き下がる、よな……?)
そもそも今日は日曜日だった。インデックスに会う前の上条なら休日やよし、と惰眠を貪っているところなのだろうが(記憶がないので良く分からない……ところだが、残念ながら、折角の休日に早起きするほど出来た人間ではなかった、と断言できる)、インデックスと過ごし始めてからというもの、特に日曜の朝はかなり早くに叩き起こされていた。原因は――アニメ番組だ。
(大体何であの手の番組は朝にやるんだよ、朝に! 夜中にやれば良いだろ!)
何でも何も子供用の番組だから夜中に出来ない、ということに気づかず、半ば八つ当たり気味になる上条である。テレビの音量はともかくインデックスは騒ぎながらアニメを見るので目はとっくに冴えてしまっているのだが、ここで起きてしまったら『いつでも都合の良い時間にご飯を出してくれる――わけではないんだ、上条さんは!』大作戦は失敗なので、上条は目を瞑り続けていた。
「…………寝てるのかな?」
そろそろとインデックスが近づいてくる気配がする。すると、それと一緒にどこか甘い匂いが漂ってきた。
(……?)
上条が訝しく思ったところで、インデックスの呟きが聞こえる。
「うーん、どうしよう。とうまが起きないんだよ。冷蔵庫のケーキはもう食べちゃったし……」
(そ、それは……何か御坂が渡してきたやつだ!)
昨日の帰りに道端で呼び止めてきた御坂から手渡されたのはパウンドケーキだった。周りを警戒している様子だったので詳しい話は聞けなかったが、貰ったものなのだから上条が食べても問題ないのだろう、そう思って仕舞っておいた一品だ。あぁ久々の甘味だったのに……多分一欠片も残ってないんだろうな、と涙目になる上条である。
「む、とうま起きてるんだよ?」
「…………な、何でばれてるんだよ!?」
思わず跳ね起きると、インデックスと目が合う。その顔が見る見るうちに高潮していくのが見えて、上条はしまった、と後悔した。どうやら鎌かけだったらしい。慌ててもう一度布団を引っかぶったが、後の祭りだった。
「もう、起きてるんなら起きてるって言ってほしいんだよ、とうま!」
無理矢理布団を引き剥がしてきたインデックスは、上条の上に乗りかかる。上条はインデックスの体を押しのけながら言った。
「だあああああ! ケーキ食べたんだろ、インデックス! 腹減ってるかもしれないけど、ちょっとは上条さんのことを考えてください! 俺はまだ眠いの!」
「だってだってだってだっておーなーかーがー!! さっきのケーキだけじゃ食べ足りないんだよ!」
「だったら御坂にでも作ってもらえよ!」
その一言が出た途端、ぴたりとインデックスの動きが止まる。少し考え込むような顔をしたインデックスは、ぽつりと呟くように聞いてきた。
「…………あのケーキ、手作りだったの?」
少し気おされながら上条が頷くと、インデックスはすっくと立ち上がる。そのまますたすたとキッチンの方へ向かうインデックスの背中を呆然と見送り――かけて、慌てて上条はインデックスを呼び止めた。
「何するんだよ、インデックス!?」
「私もやるんだよ?」
頬をぷっくりと膨らませたインデックスは、上条の方を怒ったように振り返って言う。
「……………………え?」
「何だかよく分からないけど、他の人に作れるんなら、私にも作れるはずなんだよ。そうだよね、とうま?」
「あー……うん、まぁそう……だよな?」
「そこは自信を持ってほしいんだよ」
不安になって聞き返す上条にますます眉を吊り上げたインデックスは、そのまま上条の方を振り返らずにキッチンへ引っ込んだ。何故インデックスがあんな風に不機嫌になってしまったのか、そして急に料理をする気になったのか、上条にはさっぱり分からない。
(…………まぁ、自分で作れた方が便利だしな?)
そう見当違いなことを上条が考えたのと、ドンガラガッシャーン、という調理器具の大合唱が聞こえたのは同時のことだった。


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上条さんが女心に鈍感なのはハーレム主人公だから仕方がないんです、仕様です
インデックスが無意識恋心だと非常に美味しいと思うんですが、公式インデックスではありえないとも
対抗してお菓子作りとかさ! 乙女の戦場ですよね!


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