「きす……?ってミサカはミサカは良く分からない単語だったから聞き返してみたり!」
「キス、接吻、口吸い、言い方はたくさんあります、とミサカ10032号はネットワークで検索をかけた結果を披露します」
「なぜこのような知識がたくさん引っかかるのでしょう、とミサカ19090号は首を傾げます」
「な、ななななな何故でしょうね!とミサカ13577号も同意します」
「自白も過ぎますよ、とミサカ10032号は突っ込みをしつつ、早速最近のミサカ13577号の動向データを閲覧します」
「ぷ、プライバシーの侵害になるのでは、とミサカ13577号は慌てて上司に停止命令を出すよう促します」
「…………何が良いのかな、あんなの、ってミサカはミサカは疑問に思ってみたり」
「ま、まったく上司が役に立ちません!とミサカ13577号は歯軋りをしつつ、」
「ふむ、つまりはこういうもので知識を得たということですか、とミサカ10032号は納得し、今後の参考のため、全ミサカに向けて情報を送信します」
「や、止めてください、とミサカ13577号は、や、やめてください!!」


***


 相も変わらず賑やかなミサカネットワークから意識を切り離すと、打ち止めはふぅ、と一つため息をついた。訂正、と頭の中で思う。ミサカネットワークが賑やかになったのはごく最近のこと――具体的には、あのツンツン頭の少年が関わってきてからのことだ。それもあってか、全ミサカは今やあのツンツン頭の少年に夢中らしい。……らしい、という冷静な判断が下せるのが何故なのか、打ち止めにも良く分かっていない。
「オイ」
聞きなれた声がして、打ち止めは目を開ける。クッションに体を預けたまま寝転んでいる格好に呆れたのか、一方通行はいつもの三割増し眉間に皺を寄せて、打ち止めを見下ろしていた。打ち止めは机の上にある時計を見上げる。18時過ぎ、つまりミサカネットワークで1時間以上雑談に興じていたことになる。これも、今までになかったことだ。
「起きろ、そろそろ飯だとよ」
一方通行が言うのが聞こえた。
「ごはん!?ってミサカはミサカはぱっちり目を覚ましてみる!」
ちょうどお腹が空いたところだったので、打ち止めは勢い良く起き上がった。ネットワークに接続する前、買い物に行くヨミカワにお土産を頼んだので、何かしらのデザートが出てくるに違いない。打ち止めはウキウキしながら、足取りも軽やかにリビングへ繋がる廊下へ足を踏み出す。一方通行がついてこないようなので振り返ると、彼は何だか変な表情を浮かべていた。
「? どうしたの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」
聞くと、一方通行は、あぁ、とどうでも良さそうに言った後、続ける。
「……確かさっきのオマエと良く似た反応したシスターがいやがったな、と思ってよォ」
「しすたー?」
「あー、……ヨーロッパの尼サンだ」
尼サンって感じの年でもなかったけどな、と一方通行は付け足す。あまさん、と言われても良く分からなかったので、打ち止めは気にしないことにして、少し早足でリビングへ向かった。今度は一方通行もちゃんとついてきていることが、足音から分かる。それに打ち止めは安心した。ご飯は温かいうちが美味しいし、それに――いただきます、は皆が揃わないと出来ないのだから。


「ねぇねぇ、アマサンって何?ってミサカはミサカは聞いてみる」
ヨミカワ手製のハンバーグを食べ終わった後、打ち止めは二個目のシュークリームに手を伸ばしていた。程よく甘いカスタードクリームの後は、イチゴのクリームの入った季節限定の方を選ぶ。人数は4人で、シュークリームは10個。一人2つ食べてもまだ余る計算だ。
「按摩さん? また良く分からないこと聞いてくるわねぇ」
紅茶を傾けつつ答えたヨシカワは、まだシュークリームを半分しか食べていない。少しずつちぎって口に運んでいるので、べとりと指についた生クリームをティッシュで拭いつつ食べ進めている感じだ。もったいないなぁ、と心の中で思ってしまう打ち止めである。
「マッサージする人じゃん」
端的に答えたヨミカワは、既に2個のシュークリームを食べ終わっていた。それ以上食べる気はないのか、頬杖をついて話に加わっている。残りのシュークリームは4個、打ち止めが食べたいと思っていたチョコレートのシュークリームはまだ健在だった。
「違ェよ。尼サンだ尼サン」
最後の一欠片を咀嚼した一方通行が否定する。一方通行が選んだのはシューアイスだったので、いつもより幾分早く食べ終えたようだった。一方通行はこう見えて意外と食べ方が丁寧だったりするのを、打ち止めは知っていた。物を口に入れたまま喋ったりすることもないので、自然、一方通行の食事中の口数は少ない――まぁ、元から喋る方でもないけれど。
「あぁ、そっちの方」
納得した顔でヨシカワが頷く。
「? 違うの?ってミサカはミサカは続きを促してみたり」
「坊さんの女の人バージョンじゃん。つまりお寺にいる女の人じゃん」
「……愛穂、あなた教師よね?」
端的すぎる説明が気に障ったのか、ヨシカワがヨミカワを睨む。ヨミカワがあははー、と愛想笑いをしつつ、シュークリームの箱に手を伸ばすのが見えた。狙っていたチョコレートのシュークリームには手を出さないで欲しい、本来ならそう言うところだったが、打ち止めは動けなかった。

 良く分からないが、アマサンは女の人らしい。
 さっき一方通行が思い出していたのは――女の人、らしい。

(…………? あれ?)
それが分かった途端、何故だかずきり、と胸の奥が痛んだ気がした。
「どォした?」
食べないのか、と言わんばかりに一方通行がシュークリームの箱をこっちに掲げてくる。いつの間にか3個に減っていたシュークリームだが、打ち止めのお目当てだったチョコレートはちゃんと残っていた。けれど、何だか妙に食欲がなくなってしまって、打ち止めは首を振る。
「…………要らない、ってミサカはミサカは答えてみる」
「あァ? 余るだろォが。食え」
不思議そうな顔で一方通行がもう一度薦めてくる。普段食べ物が余りそうになる場合、率先して食べていた打ち止めがこんな風に断るのは珍しいので、単なる遠慮だと思ったのだろう。打ち止めはしばらく俯いたまま反応しなかった。一方通行は怪訝そうだったが、やがて諦めたのか、シュークリームの箱の裏を見る。
「賞味期限は……今日だなァ」
「じゃあ残りは1つずつ食べましょうか。愛穂、追加ね」
「げ、流石に苦しいじゃん?」
言いながら、三人は残ったシュークリームを分け合う。1個しか食べていなかったヨシカワは余裕の顔でシュークリームを口に運んでいるが、既に4個目のヨミカワは、ほぼ勢いだけで食べきろうとしていた。一方通行は、さっきのようなアイスではなかったからか、少しゆっくりとしたペースでシュークリームを頬張っている。食べ方は綺麗な方なのに、それでもやはりシュークリームだからか、一方通行の口元には少しクリームが残っていた。
「ねぇ、」
「なンだよ?」
「クリーム、ついてるよ、ってミサカはミサカは、」
何故、そうしてしまったのかわからない。けれど、打ち止めは気がつくと一方通行の唇の端に唇を寄せていた。そこについていたのは、甘い甘いチョコレートクリーム。打ち止めの好きな、食べ損なった味だ。口を開いて舌で舐めると、チョコレートの味と一緒に、一方通行の唇の感触が伝わってきた。一方通行が硬直しているのが分かる。何か言いたいのだろうけれど、下手に動けないらしく、一向に言葉は紡がれない。多分、驚いているのだろう――それが、何故だか打ち止めにはとても嬉しかった。

 今なら、何で『あんなの』が楽しいのか――少し分かる気がした。
 だって、こんなに近くに一方通行を感じられるのだから。

 丹念に口元を綺麗にした後、打ち止めは一方通行から少し顔を離す。今まで見たこともないような驚いた顔で、一方通行は打ち止めを見ていた。それも、打ち止めにはとてもとても嬉しかった。
「……な、何やってンだ、オマエ……」
声には動揺がありありと混じっていて、打ち止めはそれで逆に余裕を取り戻す。さっきまでのドキドキを押し込めて、打ち止めは出来るだけさらっと切り返した。
「さて、何でしょう?ってミサカはミサカは逆に尋ねてみたり」
一方通行は黙り込む。そうだ、さっきのはほんの少しだったけれど、そしてクリーム越しだったけれど、ちゃんと触れ合っていた。だから、つまり――
「あれ、だんまり?ってミサカはミサカは、」
「ノーカンだ、あンなモン」
一方通行はそう言って立ち上がる。逃げるような言葉だったけれど、打ち止めは満足して一方通行を見送った。
 ――その顔が赤くなっているのを、知っていたから。


-------------------------------------------
打ち止めが嫉妬する話を書きたかっただけです
女の子が嫉妬して自らちゅーしてくる話が大好きなんです
ところでめちゃくちゃ黄泉川と芳川の前でやっちゃってますね、大丈夫かしら
……すいません、次はもっと自重します☆(嘘くせぇ


inserted by FC2 system