「オイ、起きろ、クソガキ」
布団を取り上げて言ったものの、反応はゼロだ。すやすやと気持ち良さそうに打ち止めは寝入っていた。
「コラ」
取り合えず鼻を摘んでみる。しばらくして、んん、と少し呼吸が苦しそうになったので、手を離す。どうやら呼吸の苦しさと眠気だと、眠気の大勝利らしい。
(……ったくよォ)
傍らにあった椅子を引いて座ると、一方通行は頬杖をつく。長い戦いになりそうだった。


 次は、頬を引っ張ってみた。さっき鼻に触った時もそうだったが、子供の体温というのは自分よりも高くて何だかどきりとしてしまう。いつも無遠慮に触ってきた頬は、改めて触れてみると、やっぱり柔らかかった。
「……起きねェか」
頬から手を離すと、一方通行はため息をつく。この様子だと、恐らく額にデコピンしようが、ペンで落書きしようが起きないだろう。
「はしゃぎすぎだ、バーカ」
ペシッと軽く額を叩くと、打ち止めは、うぅん、と顔を顰める。でもそれでも目を覚まさない。
 一緒にお出かけ、そんなバカバカしい要求なんて、いつもは突っぱねるところだった。けれど事情が事情なので、一方通行は今日だけは特別に了承していた。相当不機嫌顔で返事をしたつもりだったが、打ち止めには通じなかったらしい。『約束』が嬉しかったのか、打ち止めは昨日随分とはしゃいでいた。

 まぁつまり――結果がこうなるのは、予想範囲内だ。

「泣き見ンのはテメェだっつーのによォ」
いつもより早起きをした一方通行は少し寝不足だった。目は一応開いてはいるが、どこか思考はぼんやりしがちで。

 だから――この行動は、そんな眠気がさせた、ただの気まぐれ――だ。

(………………)
 一方通行は立ち上がり、彼女の耳元で、一方通行はその一言を囁く。
 ――聞こえてほしいのか、それとも聞こえてほしくないのか、自分でも分からないまま。



「ふぁー、ってミサカはミサカは欠伸をしてみる。あれ、今何時?ってミサカはミサカは……わぁ、びっくりした!っていきなり横にいたあなたに驚いてみたり!」
「……寝起きからテンション高ェな……お前」
既にぐったりモードの一方通行は、耳を塞ぎたい衝動に駆られた。用事は済んだとばかりに、げんなりした様子で立ち上がる。
「あれ、もう行っちゃうの、ってミサカはミサカはちょっと名残惜しく思ったり」
「支度しろ。外行くンじゃねェのか」
「あ、あああああああ!! 忘れてた! ってミサカはミサカは大慌て! もうお昼だ、ってミサカはミサカはベッドから飛び降りて用意をしに走り出してーー……」
語尾の方は打ち止めが出て行ったので聞こえなかった。……本人ですら覚えていない約束を律儀に守ろうと思っていた自分に少し泣きそうになった一方通行である。
(……メンドクセェ……)
多分今日中には、面と向かって、もう一度言わなくてはならないのだろう。
(オメデトウ、か……)

 自分がその言葉を言うのに、違和感があるのは事実だ。
 だが、彼女は大人びた顔で言った――生まれてきたことに、その理由の一つである一方通行に感謝する、と。
 ならば、その生を祝うことぐらいは、こんな自分でもして良いのだろうか。

(…………なンかねだられた方がマシだな)
誕生日といえばプレゼント、という一般常識ぐらいは一応知っている。だが、何を用意すれば喜ぶのか、一方通行には正直なところ良く分からない。選んでもらったものを買うことくらいは出来るが、選んで持ってきてくれと言われたらおしまいである。
(そういや、)
彼女と過ごしてしばらく経つのに、彼女の好き嫌いだとかそういったものをまるで知らないことに気づく。笑った顔や泣きそうな顔、怒った顔、百面相な打ち止めの表情を傍らで見てきたが、それが『どういう条件下』でくるくる変わってきたのか――今思い返してみても、まったく思い至らない。
(女ってのはガキでもわっかンねェモンだなァ)
頭をかくと、一方通行は気だるそうに彼女の部屋を出て行った。

 一方通行は知らない。
 彼女の表情が変わる原因の多くが、自分にあることを。
 ――一番の笑顔は、いつも自分に向けられていることを。


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打ち止め誕生日
耳元で囁いたのは愛の言葉ではなく、お祝いの言葉です
言葉攻めしてねぇ……!! タイトル間違ってる……!!(ガビーン)
え、えろえろな展開を書く機会にでも取っておくよ、ごめんね!
えろえろなんて書けるか分からないけど!!



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