部屋に入ったら、何故かパンツが見えた。

「……はっ?」
上条当麻は目を擦った。パンツはパンツでも平面的な洗濯し終わったよなパンツではなく、そこから真っ白い太ももがにょきっと生えている。つまりは、立体的な――有体に言うと、実際に女の子が履いているパンツである。
「ふぇっ……?」
小さく上がったうわ言のような声に合わせて、次に見えたのが居候の少女の顔だった。尤も、その顔に浮かんでいるのはいつもの見慣れた子供っぽい表情ではなくて、どこか熱っぽいそれだ。こっちに向けられた視線は潤んだ瞳から発せられていて、僅かに上下する胸はほぼまっ平らと言っても良いくらいなのに、どこか色っぽい。慌てて上条は、がちゃり、とドアを閉める。
「…………な、なぜに?」
呟いたが、答えは出てこなかった。


「は、入るぞー?」
いつもは全くしないノックの音を響かせて、上条は再度部屋へ足を踏み入れた。たっぷり10分外で待ってただけあって、流石に居候の少女――インデックスは居住まいを正している。いつも通りの修道服姿に上条はほんの少し安心して――次の瞬間、驚愕した。
「とうま、これなに?」
正座したインデックスの前に、肌色率90パーセントオーバーの雑誌が置かれていた。
「い、インデックスさん……ベッドの下には食べ物はないってあれほど念を押しておきましたよね?」
ベッドの下に突っ込んでおいた上条コレクション(一部青髪ピアスや土御門が貸して(押し付けて)きたものを含む)が、テーブルの上にばーんと並べられているのはある意味圧巻だった。あー、ちょびちょび買ってたつもりだったけど、いつの間にかこんなに溜まってたんですね……ははは、と上条の口から乾いた笑いが漏れる。
「とうま、これなに?」
これなにも何も、説明など無用の長物なTHE エロ本を前にして、上条は沈黙した。まさかほぼご飯にしか興味のないインデックスにエロ本で責められるとは思ってもみなかった上条である。当然ながら言い訳など用意しているはずがない。
「…………え、えぇとですね。それはその、あの、ほ、ほけんたいいくのきょうかしょと言いますか……」
我ながら苦しい、と思いつつ、上条はインデックスの方に伺うように視線を向ける。
「ホントに?」
「教科書です! どっからどう見ても教科書です! 教科書中の教科書! もうものっすごい教科書! 超教科書!」
半信半疑といった感じで首を傾げるインデックスに、上条はものすごい勢いで教科書を連呼した。むぅ、と眉を潜めたインデックスは雑多に置かれた雑誌の一冊に手を伸ばす。
「わ、わわわわわわぁあああーーーーーーー!!!!」
慌ててインデックスの手から雑誌を取り上げる上条だが、取り上げられる先から次の雑誌を手にするインデックスに追いつけない。薄い雑誌とはいえ冊数が重なればそれなりに厚みも増してくる。二つしかない上条の手が限界を迎えるのも無理はなかった。結局10冊ほど取り上げたところで、インデックスが雑誌を読み込むのを許してしまう。まるでいつも通り本を読むかのように、インデックスは興味深そうにぱらぱらとページを捲っていく。
「ご、後生ですからインデックスさん、そんなマジマジ見ないで……」
生気の抜けたような上条の声に、インデックスは反応しなかった。そっとインデックスの方を盗み見ると、彼女は顔を真っ赤にさせている。ごくり、と彼女の小さな喉が唾を嚥下する。
「これ、ホントに教科書なの……?」
困惑した様子でインデックスは呟いた。
「あ、えぇとな、インデックス……その、」
上条が言い訳を思いつく前に、インデックスは更に言葉を続ける。
「だ、だって……なんだか、すごく変なんだよ?」
「へ、変って?」
「さっきこの本の通りにしてたら、何だかすごくふわーっってしちゃったの……とうま、私どこか変なのかなぁ?」
顔を赤くしたインデックスの細い指が、いつもの裾の長い修道服の中に潜っていく。その手は明らかにもじもじと擦り合わせるようにした太ももの間に伸びていた。
(くぁwせdrfgfhhっfhっ!?)
上条は絶句する。というか、これはもう明らかに女の子がナニをしているという状態であって、そりゃ気持ち良いんだろうけどそんなことを直接聞いて良いのかというか何と言うか――
「で、でもね、この本とかこの本とか見ると、別にそこまで変じゃないみたいだし、どうしよう……とうまぁ」
だが上条の混乱を余所に、インデックスの告白は続く。ゆっくりと、でも確実に彼女の指先が動いているであろうことが分かる。硬直して固まった状態の上条の耳が、くちゅり、という濡れた音を捉えたところで限界が訪れた。
「す、すすすすすすすすいません! 教科書じゃなくてエロ本でしたッ! 悪い本でしたッ!」
居た堪れなくなった上条は、気がつくとその場で土下座していた。目の前で起こっていることに頭がついていかなくて、ただあまりの熱さに顔が上げられない。そのまま床に頭を擦り付けたままでいると、インデックスの戸惑った声が頭上から降ってきた。
「……さ、流石に教科書じゃない、ってことぐらい知ってた……ん、だよ」
顔を上げると、真っ赤になったインデックスがふてくされたようにそっぽを向いていた。修道服の中に忍ばせていないもう片方の手を使って、インデックスはそっと上条の指先を服の中へ導いた。
「なんで素直に謝っちゃうかなぁ……こ、これ以上は言わせないで、とうま?」

 頭のスイッチが入れ替わるのは、意外と早いものだと上条は初めて知った。


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ホントはギャグオチにしようかと思ったけど止めた
上条さん何だかんだで恋愛(っていうか性行為?)ではヘタレだと思うの


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