苦虫を噛み潰したような顔で、一方通行は店員に問いかけた。聞かれた相手の表情が引きつっているのは、自分がこの場所に似合わないからか、それとも単に最悪の顰め面を浮かべているからか。
 ちなみにここは――とあるファンシーショップである。


 一方通行は腕組みをしながら、キャラクターグッズの山を見下ろしていた。
(……どれがイインだァ? 違いがわかンねェぞ、コラ)
試しに一つ、手にとってみたが、あまりピンと来ない。たかがストラップ一つ買うだけ、と高を括っていたものの、実際に選びに来てみれば、種類が多すぎてどこから見ていいやらさっぱり分からなかった。おまけにさっきから投げかけられている、お世辞にも居心地が良いとは言えない視線、視線、視線。
 一方通行は半分自棄気味に店内を歩き回りながら、あちこちに置かれたストラップに目をやる。所狭しとたくさん設置された棚の中でも、一際背の高い中央の棚に置かれている商品が人気があるらしい。遠目にも、たくさん飾られたポップや、設置されたディスプレイに絶え間なく流れる可愛いんだか可愛くないんだか良く分からない間延びしたキャラクターCMから、宣伝に力が入っているのが分かった。一方通行は中央の棚の方へ歩を進めると、飾られたグッズをねめつける。
(…………多……)
中央の棚は天井に届くほどの高さがあるためか、収納されている売り物の数も少なくない。候補がいくらか絞れる、と思いきや、全くそんなことはなく、一方通行は肩透かしを食らってしまった。
(……あのクソガキ、どォいうヤツが気に入ってたンだったか……)
打ち止めの持ち物などしげしげと見たこともなかった一方通行は、どういうものを彼女が欲しがるのかさっぱり分からない。取り合えず可愛いものを選べば良いのだろうと思っていたが、全部が全部丸っこかったり柔らかかったりする似たり寄ったりのもので、突出したものは見当たらない。
「……チクショウ」
開始10分で早くも白旗をあげたくなってきた一方通行である。途中で見兼ねたのか、店員がいくつか案内してくれたものの、今人気があるのはこちらなんですよ、と指し示してもらったものの全ての見分けがつかない場合、どうやって選べば良いのか。一方通行は絶望的な気分になりつつ、店内をうろうろと歩く。
(……クソッ、なンで俺があのクソガキのためにこンな居心地悪ィ思いしなきゃなンねェンだ)
パンダ、ウサギ、イヌ、ネコ……取り合えず世の女たちが動物好きだということを嫌と言うほど学んだ一方通行は、うんざりした顔で再度辺りを見回した。というか、ほんの一握りくらいいるだろう、別に動物なんか好きじゃない女も……だが、もちろん食べ物など論外だ。一方通行はマカロンのストラップを摘み上げる。別に食べれるわけでもないのに、なぜ食べ物を携帯電話につけようなどと思うのか。
「それはお客様がお求めのものよりも少し年齢層が上の方に人気がありますよ」
まだ横に控えていたらしい店員が頼んでもいない解説をする。一方通行はため息をついて、マカロンを置かれていた棚に元通りに直した。
(まァ、こンだけ見てもこれってヤツはねェみたいだしなァ。もうやめとくかァ?)
半分以上気疲れで壁にもたれ掛かると、したたか頭をぶつけて一方通行は顔を顰めた。ちょうど真後ろに壁から少し出っ張る形で案内図が書かれている。
(ゲッ…………)
どうやらこの建物が6階建てで、そのうち4階までがこの訳の分からない『ファンシーグッズ』とやらに支配されているらしい。戦いは、まだ全く終わりそうになかった。


「えー、可愛くないー、ってミサカはミサカはあなたのセンスに呆れてみる」
ごそごそと袋を開けて中身を覗き込んだ打ち止めの第一声はそれだった。結局一方通行が選んだのは、シンプルなモノトーンのストラップだった。店の隅っこの方に追いやられていた、いかにも人気がありません、という体の代物だが、人気がないとは言っても、値段的にはそこそこしたし、物自体も悪くないので、純粋に客層に合わなかっただけだろう、と一方通行は踏んでいる。
「イラネェみてェだなァ、クソガキ」
ひょい、と小さな手から件の『センスの微妙な』ストラップを取り上げると、慌てて打ち止めがすがり付いてきた。
「た、たんま! 今のなし!ってミサカはミサカはストップストーーップ!!」
腰に纏わりつきながら手を伸ばす打ち止めを一頻り翻弄した後、一方通行は、取り上げた時と同じくらいあっさりと彼女の手にストラップを戻す。両手でそれを受け取った打ち止めは、ポケットからこないだ買い直したばかりの真新しい携帯電話を取り出した。しばらく成り行きを見守っていた一方通行だが、打ち止めがまごまごとストラップをつけるのに手間取ってるのを見て、彼女から携帯電話を奪い取る。
「貸せ」
ものの30秒で器用にストラップをくっつけると、一方通行は打ち止めにそれをつき返した。思ったとおり、彼女の新しい携帯電話にそのストラップは良く合っていた。
「どうしてこれを選んだの、ってミサカはミサカはあなたに質問してみる」
その視線が、ストラップの方に奪われていたから、答えられたのかもしれない。

「………………ゾウが踏ンでも壊れねェヤツ教えろったンだよ、店員に」

打ち止めの何気ない問いかけに、一方通行は、そう答えていた。
「え?ってミサカはミサカは、」
問い返すような言葉は途中で途切れて、打ち止めは目を丸くして少し考え込んだ。やがて思い至ったのか、嬉しそうに笑う。
「じゃあ、ずっと大切にするね、ってミサカはミサカはあなたに抱きついてみる!」
「調子に乗ンな、バカ」
ムードに流されずに、一方通行は打ち止めの頭を叩いた――少し赤くなった顔を見られないように、顔を背けながら。


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壊れない=ずっと持っている、という意味合いですよ
あとシンプルなのを選んだのは大人になっても(デザイン的に)持っていられるように、って話ですね
うわぁ……うわぁ……何この一方さん(自分で書いておきながら)


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