よく笑う子供の、その笑顔に――何故かイライラする。


 打ち止めが居ないことに最初に気づいたのは黄泉川だった。
「あれ? 打ち止め居ないじゃん?」
打ち止めの部屋を覗き込んだ後、黄泉川は首を傾げてこっちを振り返ってくる。黄泉川に視線だけで、知らないか、と問われて、一方通行は首を振って答える。
「……その辺で寝てンじゃねェのか」
「あら、流石にもう大分寒くなってきたんだし、リビング以外に寝られるその辺、なんてないわよ」
芳川が苦笑する。視線は研究書から動いてないものの、それぐらいは分かってるでしょう、と言わんばかりの態度だ。確かにもうすっかり冬で部屋の中にまで寒気が入り込んでいる時期だ――そんなことは一方通行にも分かっているのだが。
「あと30分で出来るじゃん?」
黄泉川もごく普通に一方通行に話を振ってくる。何となく二人に行動を読まれている節が面白くないが、一方通行は舌打ちをするだけに留めて立ち上がる。あの子供が行く宛を一番知っているのが自分なのは、多分間違いないことなのだから。



 子供の行動範囲は意外に広い――らしい。
 一方通行が打ち止めの声を耳に捉えたのは、打ち止めを探し始めてから三番目に訪れた公園だった。一つ目、二つ目と空振っていたので少し不安になったのだが、流石にそこまで遠くには行っていなかったらしい。
「ないすしゅーと!ってミサカはミサカは自画自賛してみたり!」
公園の入口から中を覗くと、打ち止めがぴょんぴょん飛び跳ねているのが見えた。備え付けになっているらしいサッカーゴールの近くにボールが転がっている。シュートを見事決めたのだろう打ち止めは喜びを全身で表していた。シュートを阻止できなかったらしい、打ち止めよりいくつか年下に見える子供が悔しそうに唇を噛んでいる。
 何人かの子供で集まってサッカーをしていたらしかった。普段は一方通行の傍をちょこまかと動き回っていることの多い打ち止めなので、同年代……よりは少し下かもしれないが、とにかく他の子供とまともに遊んでいる姿を見るのが珍しい。遊んでいるグループは男女半々ずつぐらいのようだ。何人かは服に泥を付けているので、試合が始まってそこそこ時間は経っているのだろう。
「いっくよー!」
「ちょ、まて! タイム! さくせんーーー!」
帽子を被った子供が手を挙げると、半分の子供たちが彼の周りに集まる。どうやら打ち止めの相手チームは作戦会議のようだ。と、打ち止めのチームの側もそれに合わせてコートの別の端に集まっていく。
(………………チッ)
邪魔することもはばかられて、一方通行は公園の門に背中を預けた。何となく隠れるようになってしまったのが何故なのか自分でもよく分からない。時計を確かめると、19時前。黄泉川が指定した時間にはもう少し間がある。ハァ、と吐いた息が思ったより白くて、一方通行は指先をポケットの中に突っ込んだ。
「まだー?」
「まだー!」
何がおかしいのか分からない、子供たちの笑い声。この寒い中嬉しそうに白い息を弾ませながら、肩を寄せ合う少年少女。そのどれもが自分には全く縁のなかったもので――
(……別に、なァ)
縁がなさすぎると、案外何の感慨も湧かないものだ。ガラスを一枚隔てたような、ブラウン管の中のような、そんな遠いセカイの出来事だと認識してきたソレを、今更羨ましいだの妬ましいだの思ったりはしない。
「そろそろさいかーい!」
けれど背後で上がる歓声に、何かが引っかかっているのが自分でも分かる。一方通行は振り返ってサッカーボールを追いかける子供たちを眺める。たくさんの子供と一緒に、打ち止めがボールを追いかけている。息を弾ませて、こけそうになりながらもバランスを取り戻して、楽しそうにはしゃいで遊んでいる。

 本当に嬉しそうに笑う打ち止めの顔、
 それが視界に入った一瞬――

「オイ、帰ンぞ」
気づけば、一方通行は打ち止めに声をかけていた。走っていた打ち止めが驚いた顔で立ち止まる。
「あれ、あれ、あなたどうしてここに居るの、ってミサカはミサカは……あ、あぁー! もうご飯の時間だ!ってミサカはミサカは時計を見て愕然としてみる!」
公園の大時計を確認した打ち止めは、コートから飛び出して一方通行の傍に駆け寄る。しっかりと片手で一方通行の手を握った後、打ち止めは一緒に遊んでいた子供たちにもう片方の手を振った。
「またねー!ってミサカはミサカはお別れの挨拶をしてみたりー」
子供たちの方も、バイバーイ、と大声で打ち止めを送り出す。てっきりもっと遊びたい、とか駄々をこねられるものだと思っていたのに、意外とあっさりとした別れに一方通行は拍子抜けした。
「アレでイイのかよ」
「明日も会えるから!ってミサカはミサカは頷いてみたり」
見上げた打ち止めが笑顔で答える。何となく、それが気に入らない。そんな気持ちが表情に出てしまったのか、打ち止めは不思議そうに聞いてくる。
「何か嫌なことでもあった?ってミサカはミサカは聞いてみる」
原因は、これまた何となく分かっている。それが酷くみっともないことであることも、分かっている。
「……分身はできねェからなァ」
自分に言い聞かせるように呟くと、一方通行は繋いだ手を打ち止めの手ごと自分のジャケットのポケットに突っ込んだ。


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みっともない男の嫉妬の一方さんの話
子供にすらSHIT!な心の狭い一方さんって公式ではありえないと思うんですが(ストイックと自己犠牲がウリの公式セロリさん…)、
二次創作だし良いよね! たまには心の狭い一方さんもありだよね! ……あり……だよね……?


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