あぁ、笑った――と、思った。


***
 その二人は来店した時から目立っていた。年の頃は高校生ぐらいなのに何故か白髪の少年と、キョロキョロと忙しなく辺りを見回している十歳ぐらいの活発そうな少女。店の入口でそんな凸凹な二人(というか片方)が騒いでいる。
「ねぇねぇ、勝手に入っていいのかなぁ?ってミサカはミサカは突入の構えを見せてみたり」
「アホ、そのうち誰か出てくンだろ」
「うわーい、ゲコ太ゲコ太!ってミサカはミサカは抑えきれない感情を拳を振り上げることで表現してみる!」
いつもならこの時間は比較的店内は空いているのだが、どうやら誰も相手をしに出ていないらしい。ホールを見渡してスタッフの全員が接客しているのを確認すると、俺は少しだけため息をついてから気をとり直した。周りに気をつけつつ小走りに入り口へ向かう。
「お待たせいたしました、いらっしゃいませ。2名様でよろしいでしょうか」
「うん、ニメイサマ!ってミサカはミサカは同意してみたり」
少しはしゃぎ気味ですぐに店内に入ろうとする少女を少年は押さえる――と言うか、思いっきり額の辺りを掴んでる……下手をするとものすごく痛そうなのだが、少年は気にした様子もない。まるでそれが日常であるかのようだ。
「キンエン」
聞く前にボソリと少年がそう口にしたので、俺は窓側の禁煙席へ二人を案内する。メニューをテーブルに置くと、少女が早速それを手に取り……見る見るうちにその表情が陰っていった。すぐ水を取りに行きたかった俺だが、離れるに離れられず、どうかなさいましたか、と聞く。
「ゲコ太は……?ってミサカはミサカは聞いてみたり」
言われて俺は思い出した。今うちの店は一部のメニューでゲコ太というキャラクタのおまけがつくコラボを実施している。ただ実施中は実施中なのだが、おまけの在庫がもう殆どなかったはずで、メニューも最初からは出さないように指示されていた。
「…………少々お待ち下さい」
水を先にサーブするように別のスタッフに頼んでから、俺は裏へ引き返す。景品類のある棚を確認すると、一つだけ残っていた……ただ袋に入っていない。
「…………あ、見本か……」
カエルの頭には黄色いシールが貼られていた。確か見本として店頭に置いていたもので、念のためフェアが終わってから処分することになっていたものだ。薄いながらも少し汚れてしまっている。つまり客に渡せる景品はもう残っていない。
 俺は件の二人のテーブルまで引き返してもう景品が残ってないことを説明した。
「申し訳ございません」
頭を下げると、少女の表情がますます萎れていくのが分かった。心なしか、跳ねていた髪の毛もそれに呼応したかのように下がっている気がする。
「ねぇ、どうしてもどうしてもないの……?ってミサカはミサカはしょんぼりしてみたり」
「…………あ、」
その表情に少し絆されてしまって――けれど言いかけた言葉を俺は飲み込んだ。残っていたのは単なる見本で、新品とは言いがたい。貰ったって全然嬉しくないものだろう。
「困らせンじゃねェよ。さっさと注文しろ、クソガキ」
少年の、助け舟か単なる罵倒か分からない言葉に、少女はコクリと頷いた。オーダーされたメニューを繰り返しながら、少女が適当に頼んだであろうことが分かってしまって、少しだけ気が重くなった。



 他のスタッフの手が空いてなかったので、気が進まなかったものの、件の二人の会計も俺が受け持った。まだしょんぼりしたままの少女を見ていると胸が痛む。
「何か買ってやるから適当に見てろ、クソガキ」
フォローするためか、少年が店の一角にあるグッズ売り場を指さして少女に言った。少女は少し顔を明るくして、売り場の方へ走っていく。俺はその後ろ姿を見ながら、やっぱり浮かない気持ちだった。コラボしてるからたまたまカエルの景品を扱っていただけで、彼女が走っていった売り場に目当てのカエルはないのだ。
 金額を言うと、少年はカードを差し出してくる。差し出されたカードをレジに通している時、少年が唐突に話しかけてきた。
「さっきなンか言いかけただろ」
「……え、あ……」
言われて思い出した。少女が念押しした時に、一瞬だけ考えてしまったのだ。見本でも良ければ、と。
「あの……いえ、その、見本が残ってまして……」
少年は何も言わない。俺はその沈黙が怖くて、少し早口になりながら続ける。
「て、店頭に出していた見本ですので少し汚れているのですが……ないことはないな、と思いまして」
「そォか」
少年はぶっきらぼうに言う。
「規則違反にはならねェのか」
「……まぁ、」
本当は良くないことなのだが、幸い処分は各店舗側でやることになっているので、黙って持って行ってしまってもバレない。というか割と皆普通にやっていることだ。ただ、客に渡すとなると話は変わってくる。
「あの……本当にきれいとは言いがたいですし、規則違反ですので黙っていてもらえるとありがたいのですが……あの、お持ちしましょうか」
少年は躊躇う表情を見せて答えなかった。何となく、それで分かった。奇妙な見た目や乱暴な物言いではあるが、彼は自分の事情に人を巻き込むのを良しとしない――つまり、良い人間なのだろう。
「お待ちください」
そう告げて、裏へ引き返すと、見本を持ってくる。薄暗い部屋の中で確認した時よりも更に汚れて見えたので申し訳ないとは思ったが、それをそっと少年に差し出した。
「…………悪かった、」
小さく彼が呟いた。言葉だけ聞くとぶっきらぼうに過ぎるそれも、彼のこれまでの態度が悪くないものに思わせる。答えずに笑みだけを返して、ありがとうございました、といつも通りに頭を下げた。
 ホールへ足を向けた時、少女の歓声が聞こえた。振り返ると、少女が嬉しそうに笑ってカエルを掲げて走りだすのが見える。後ろをついていく少年が、ほんの少しだけ口元を歪めるのが分かって

 あぁ、笑った――と、思った。


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最初違うタイトルでパフェをあーんさせたり口元についたパフェを舐めとったりとか考えたけど
長くなりそうだったので脳内妄想で留めておいたら全然内容が変わっちゃったのでタイトルも変わりました(キリッ
もやしは物言い中二病なだけで意外と常識人だと思うの……だが打ち止めのためなら多少DQNになるやもしれぬ


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