子供の足にぶかぶかの赤いハイヒール。履いている本人は得意そうに笑っているが、評価は一言。
「オイ、似合ってねェぞ。クソガキ」
むくれた顔が一層幼くて、つい噴き出してしまった。


 テーブルに放り出されていたピンクの箱の正体は、どうやら買ったばかりの靴の包みだったらしい。どう考えても打ち止めの持ち物ではないが、別に誰のものか特定する必要も感じなかった。年中ジャージ姿の警備員や年中白衣姿の研究者にそんな意外性など求めていない。
 一方通行はピンクの箱を視界の端に収めつつ、ソファに座ったまま頬杖をついて打ち止めに話しかける。
「で、何でそンなモン履いてンだよ?」
服はいつも通りの青いキャミソールに男物のシャツ――なのに足元だけがやたらと赤い。こちらに向かって歩く度にふら付く打ち止めを一方通行は呆れ半分で見守っていた。ただでさえ高いヒールで不安定なのに、大きさが全く合っていないことで危うさに拍車がかかっている。僅か数メートルしか離れていないのに見守らないといけない事態がまず分からないが、かと言って目を離すのも危険だ。この範囲なら万が一こけそうになったとしても何とか助けに入れるはずだが――一方通行は念のため能力で何とかなるか計算し始める。
 だがそんな一方通行の心中を全く気にする様子もなく、打ち止めはズルズルと靴を床を擦るようにして近づいてくると薄い胸を反らした。
「ふふん、ミサカの今の身長は何センチでしょう?ってミサカはミサカは質問してみたり!」
「何センチも何もいつもと変わンねェだろ」
ごく素っ気無く答えると、打ち止めの眉が見る見るうちにハの字に曲がって行く。
「そんなことないよ! 昨日までと雲泥の差だよ!ってミサカはミサカは主張してみたり。って言うかあなた、ミサカの方特に見てないのにどうしてミサカの背の高さが分かるの、ってミサカは抗議してみる」
「昨日今日でそンな身長が伸びるわけねェだろ……つーかズルしてンじゃねェぞ、クソガキ」
傍らに立っている打ち止めは、ソファに座った一方通行より大分目線が高かった。いつもなら僅かに見上げる程度で済んでいるが、今は少し見上げて話をしなければならない。だが――それがどうしたと言うのか。打ち止めが一体何がやりたいのか全く分からない。
「ナニがやりてェンだよ、オマエ」
疑問をそのまま口に出すと、打ち止めはどこかぎこちない照れ笑いを浮かべた。
「何……って言うか、何か感じないかなー、ってミサカはミサカはそわそわしてみたり」
「あァ?」
一方通行は打ち止めの全身を改めて眺める。いつも通りの青いキャミソールに、いつも通りの男物のシャツ。それにいつも通りでない真っ赤なハイヒール。
「…………取り合えず危ねェからさっさとそれ脱」
最後まで言う前に思い切りチョップされていた。
「オイ何すンだテメェ!」
「よりにもよって今日のミサカの最大セールスポイントをあっさりばっさりと切り捨てるあなたの神経にミサカはミサカは謝罪と賠償を要きゅ、」
言葉は最後まで続かなかった。興奮して身振り手振りを加えていた打ち止めは次の瞬間、ぐらりと大きくバランスを崩す。
「!」
倒れ込みそうになった打ち止めを咄嗟に腕の中に引き寄せる。どうにか体勢を整えようとしたが体は止まらず、勢いのついたまま一方通行は床にぶつかった。
「ッ、」
彼女の安全を最優先にしたので、下敷きになった体の節々が痛い。強か打った背中の痛みに詰りながら、気をつけろ、と言おうとしたところで、顔を上げた打ち止めと目が合った。
「あ……」
すぐ傍に彼女の顔が見えた。
 驚いたような瞳の奥に、少し不安そうな光が湛えられている。真っ白な頬には癖がある割に痛みのない髪が架かり、首筋からはほんの少しだけ甘い香りが漂っていた。腹の上に乗った、軽いけれど確かに感じる柔らかさ。腕の中の温もり。
 ――いつもと違う至近距離。

 全てを認識した次の瞬間――気づけば体が動いていた。

「アー……こォ言うことかよ」
キスをしてみてから、思い当たった。常に上から見下ろす形の打ち止めが相手では、キスをするのも一苦労だ。何せ普通に立っているだけでは彼女のつむじしか見えない。一方通行が思い切り屈んで、打ち止めが思い切り背伸びをしなければ届かない距離だ。だが少なくともさっきのようにヒールのある靴を履いていれば、一方通行が思い切り屈んで、打ち止めが少し背伸びをすれば済む距離になる。
(……つーかオイ、)
ふと我に返る。つい勢い余って……と言うよりごく自然にやってしまったが。
 僅かに躊躇ってから上に乗っている打ち止めを見下ろすと、彼女は顔を赤くしながら唇を押さえていた。そのままちらり、と一方通行の方に視線を向けると、また床に視線を落とす。
「……背が伸びるまで毎日この靴履くかも、ってミサカはミサカは呟いてみたり」
「…………止めとけ」
打ち止めの足からぶかぶかの赤いハイヒールを抜き取りながら、一方通行はそう呟いた。


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pixivのはいむらーの通行止め絵の身長差に萌えて書いた
一方さんが手を振り払わないのは打ち止めだけ! 萌え滾った! ありがとう!
ぶかぶかの靴を履く打ち止めの絵は絶対可愛いと思うんだ……誰か描いて(ry
打ち止めの足からハイヒールを抜き取る一方さんの絵は絶対萌えると思うんだ……誰か描いて(ry


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