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 それは、夏の大切な思い出。


「あっちー、あっちが空いてるよー、ってミサカはミサカはのんびりモードのあなたを急かすように大きく手を振ってみたり」
「…………花火なんざどこから見ても変わンねェだろォが」
小声で悪態をつきつつ、一方通行は打ち止めの待っている方へ歩を進める。帰宅した途端に興奮気味に一方通行を連れ出した打ち止めの目的地は、どうやら川原だったらしい。最初はわけの分からなかった一方通行だったが、ちらほらと見かける浴衣姿に、そういうことか、と納得して今に至っている。
(……めんどくせェ)
普段から人ごみを避ける傾向にある一方通行だが、こんな浮かれた空気では尚更ご免被りたかった。視界に屋台が映って、一方通行はげんなりする。さっきから杖が邪魔で仕方がない。
「オイ、クソガキ」
一方通行は文句の一つでも言ってやろうと打ち止めを呼ぶ。だが、駆け寄ってきた打ち止めが幾分かしょげた様子だったので、勢いを削がれてしまった。視線をやると、さっき彼女が手を振っていた場所には、いつの間にか別の男女が収まってしまったようだ。
「埋まっちゃった、ってミサカはミサカはしょんぼりしてみる。ねぇ、今何時って、ミサカはミサカはッ……!!」
パァン、という大きな音と衝撃に、打ち止めが身を震わせる。思わず空を見上げた彼女は、ぽかん、として消えていく花火を眺めていた。どうやら圧倒されてしまったらしい。
「間抜けヅラ」
はっと気づいたように打ち止めが口を閉じて一方通行を見上げた。恥ずかしかったのか、その頬は少し赤く染まっている。
「ちょ、ちょっとびっくりしただけだもん、ってミサカはミサカは、わ、忘れてってば!」
くく、と珍しく体を折って笑う一方通行に、ぽかぽかと殴りかかる打ち止め。威力がないので全く痛くはないが、こんな状況を知ってる人間に目撃されたらどうしようもないので、一方通行も笑いを収めようと努力する。でも一旦ツボに入ったものはなかなか引っ込んでくれない。
「口開けっ放しでよォ」
「ば、ばかばかばか、ってミサカはミサカは、っ!」
また大きな音がして、二人の頭上に華が咲く。
「……まァ、ちょっとなら付き合ってやる」
一方通行は笑いを噛み殺しながら言う。

 それは、つかの間の――平和な夏だった。

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取り合えず好きなカップリングを1つのお題で書いてみようの巻その5
通行止めなら何でも良い!


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