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 それは、夏の小さな思い出。


「浜面遅い!!」「これだから浜面は……」「浜面超最悪です」
公園まで戻ってきた途端の三者三様の罵倒にこめかみをピクピクさせながら、浜面仕上はコンビニ袋を差し出した。中には大量の手持ち花火が入っている。彼女たちが後先考えずに勢い良く遊びすぎたせいで、追加を買ってくる羽目になったのだ。
「うっわー、アイスの一つも入ってないわ」「結局浜面は浜面ね」「超気が利かないのが逆に浜面っぽいですけどね」
言われた通りに買ってきたのに礼の一つも言わない麦野に、呆れたようなフレンダ、貶す絹旗。何でここまで言われなきゃならんのだ、と思う浜面だったが、そんな彼の心中など全く気にしない様子で、浜面の手からコンビニ袋を奪った麦野は蝋燭の置いているところまでさっさと移動してしまう。残りの二人も似たり寄ったりで、笑いながら麦野の後を追う。
(…………チクショウ、俺は負けない……)
心の中で少し涙ぐみつつ、ハァ、とため息をついて浜面はしゃがみ込む。何せコンビニまで全力疾走だった上に、手持ちの金のほとんどが花火に変わってしまったので、飲み物一つ買えなかったのだ。
「……はまづら」
「ん?」
ぴと、と頬に冷たい感触。予告なしのそれにびっくりした浜面が飛び上がりそうになると、目を丸くして滝壺が浜面の方を見ていた。
「はまづら、おもしろい」
「面白がるなよ……これ、貰っても良いのか?」
呆れつつ、頬に飲み物を押し付けたまま静止している滝壺に聞くと、彼女はゆっくりと頷いた。確認した缶は某有名清涼飲料水。浜面は、まさに喉から手が出るほど欲しかった水分を、プルタブを開けてごくごくと勢い良く飲み干す。
「…………っ、どこで買ったんだよ?」
ぷはっ、と一息ついてから浜面は聞いた。
「自販機。そこにあったから」
滝壺が指差した方向には、煌々と光を放つ自販機が一つ。さっきまでは滝壺も三人に混じって花火をしていたので、きっと浜面がコンビニまでダッシュしている時にでも買ったのだろう。もう一度缶を傾けて、浜面は今度は中身を全て飲み干した。自販機の近くにゴミ箱があるのを見て、空き缶を捨て――よう、として振り返る。
「……悪い、今手持ちがなくて」
そう、今の浜面は限りなく一文無しに近い。こんな缶ジュース一本のお金すら出せないのだ。
「いい。私のおごり」
「いや……それは、」
仮にも、滝壺は年下(だろう、少なくとも見た目的にはそうとしか思えない)な上に、浜面が下働きをすることになった『アイテム』のメンバーだ。奢り、と言われたって、何となく居心地が悪い。そんな彼の様子に気づいたのか、滝壺は首を傾げる。
「……じゃあ、いつか返してくれればいい」
しばらく考え込んでからそう言って、滝壺は、いつものぼうっとした表情を少し和らげて笑った。
「ん、分かった」
忘れないようにしないとな、と肝に銘じつつ、浜面は特に深くも考えずに頷く。
「ちょっとー、何やってんのよー?」「滝壺さん、花火超なくなりますよ」「結局足りないかも」
少し離れたところから、三人の声が聞こえる。滝壺は浜面を見上げて促した。
「行こう、はまづらも」
「あ、おい」
彼女は彼の手を引く――思ったよりも強い力で。

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取り合えず好きなカップリングを1つのお題で書いてみようの巻その2
浜面と滝壺はアイテムの影でこっそりほんのり仲良くなってると良い


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