いつ来ても病院というのはあまり気持ちの良いものではない……気持ちの良いものではないが、
「ロリコンが前方から歩いてくるのを避けなければ、とミサカ13577号は華麗な立ち回りを見せます」
――さっきからすれ違う度、同じ顔をした少女たちに同じことを手を替え品を替え言われるのは、意味が分からなかった。


 一方通行は病院に入ると館内地図で部屋を確認する。
(……今日の検査は全身とか言ってたなァ)
打ち止めが定期的に受けている検査は、最近では基本的に簡易化されたものになっているが、何ヶ月かに一回、他の妹達と一緒に大掛かりなものを実施することがある。今月はその月に当たるらしい。いつもは2、3時間程度で済む検査は、今日は午前中から出かけて夕方までという長いスケジュールになっている。

『ちゃんと迎えに来てねーってミサカはミサカは一日家の中で暇そうにしてるであろうあなたに言ってみる!』

 そう、からかうようないつも通りなような言葉を残して打ち止めは出かけていった。一方通行を振り回すことはあってもけして我侭は言わなかった彼女がそんなふうに甘えるようになった原因を、何となく一方通行は察している。
(無視するわけにもいかねェしな)
自分に言い訳するように心の中で呟いて、一方通行は検査が行われているであろう棟に足を向けた。正面玄関とは離れたその棟へ近づくにつれて段々と人の数が減っていき、どことなく秘密めいたものを感じさせる。窓から入ってくる夕闇を溶かしたような薄い光が、がらんとした空間の寂しさに拍車をかけている。
「…………、」
角を曲がろうとしたところで、喧騒に気づく。少しだけ意識をそちらに向けると、ぞろぞろと歩く同じ顔をした少女達の集団が見えた――妹達、に一方通行はどう反応して良いのか分からない。彼女達を前にすると心がいつも真っ白になり、ただ行動するだけのロボットのような状態になってしまう。今も、歩みも呼吸も、瞬きですら均一に繰り返す、ただの木偶のような状態になっていた。
 すれ違いはほんの数瞬――なのに、永遠のようにも感じられた。その最後の妹達と行き交った刹那――
「ロリコン」
ボソッと呟かれた言葉に、口が勝手に反応していた。
「あァ?」
思わず聞き返すと、その台詞を言ったであろう妹達の一人が振り返って――少し軽蔑なんだか得意なんだか分からない、”人間らしい”顔をする。こちらを一瞥したものの、それ以上何も言わずに彼女は踵を返して去っていった。
「なンなンだよありゃ」
どう反応して良いのか分からず、一方通行はポツリと呟く。遠くからまた別の集団の声が聞こえてくるまで、一方通行は訳がわからず立ち尽くしていた。



 結局打ち止めのところまでたどり着くまでに、似たような場面が数回あった。十数回かもしれないが、途中から数えることを放棄していたので分からない。幾分精神的にぐったりとした状態だったので、一方通行はようやく打ち止めを見つけてほっと息を吐く。
 ソファに座って足をぶらぶらとさせていた打ち止めの隣に座ったところで、一方通行は彼女が少し落ち込んでいることに気づいた。
「身長……」
「あァ? なンだ、縮んでたンか?」
ふるふると打ち止めは首を振る。伸びてた、と消え入りそうな小さな声で呟く。コツン、と肩に頭をぶつけてきた彼女の表情は見えない。ただ伝わってくる体温が酷く静かで、少し緊張しているのか体は震えていた。
「伸びてたンならイイだろ」
言うと、打ち止めは顔を上げる。不安そうに揺れる瞳の奥に僅かな希望を灯らせて、打ち止めは恐る恐るといった様子で尋ねてくる。
「良い、の……?」
「何が悪ィンだよ?」
逆にこっちが聞きたい。一方通行が訝しがる表情を隠さずに返すと、打ち止めは俯いて服の袖を掴んでくる。上半身が自然に彼女の方向を向く。
「だって……その、ミサカが小さいから……」

 ”そういうこと”をしたのか、と。

 打ち止めは言外に聞く。この間のことが彼女の中で尾を引いているだろうとは思っていたが、まさかそういう勘違いをしているとは思ってもみなかった。すれ違い様に妹達が詰っていったのはなるほど、これが原因なのかもしれない――どこまで知られているのかはともかくとして。
「阿呆」
小さく呟くように言うと、一方通行は打ち止めの髪をクシャクシャと混ぜっ返す。顔をまともに見て言えることではない――けれど、言わなくてはいけないことだとも分かっていた。一方通行は視線を逸らす。恥ずかしい、途轍もなく恥ずかしい。けれど、ゆっくりと口を開いて、少し逡巡してから言葉を紡ぐ。
「単に……俺の堪え性がなかっただけだろォが」
打ち止めはゆっくりと言葉の意味を咀嚼するように瞬きをして、それからどう判断して良いのか分からないと言わんばかりに困った表情でこっちを見上げてくる。そんな顔をされたって、誰が解説などしてやるものか。
「帰ンぞ」
一方通行は立ち上がると、ソファに座ったままの打ち止めに手を差し出す。彼女はソファから降りる仕草をしてから、思い直したように顔を上げた。
「ね、よく分からないけど……あなたは、ずっとミサカのこと、好き……なんだよね?ってミサカはミサカは尋ねてみる」
「知るか」
そう素っ気なく答えて、一方通行は打ち止めの手を握った。


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久々のアップですが…えぇと裏事情はですね、初夜後の話ですねー…
趣味丸出しですいません、すみません
ロリコンに勘違いされるもやしとか普通にアリだと思うんですが…きっともやしは打ち止めが好きなだけ!
好きになった子がたまたまロリだっただけ!


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