丹精込めた飴細工が綺羅びやかな塔を作っている。いずれ崩されるものなのだからここまで凝らないでも良いだろうと思うのだが、競ってそういう"作品"を仕上げてくるのだから、職人とは元来そういう気質なのかしれない。というか――
「……いーかげん飽きたし」
英国第二王女・キャーリサは呟く。その小さな言葉は華やかなパーティーの会場に流れるオーケストラの旋律に消えていった。この詰まらない時間の中で唯一評価できるのは音楽だが、それだって端の方へ寄ってしまえば喧騒に飲み込まれてしまう。最初は誰とも目が合わないようにして周りを観察していたが、全く下らないものばかりですぐに飽きてしまった。
(……毎回こんなんに出てるのか)
それでも妹は笑顔を絶やすことなく振舞っているのだろう、それもごく自然に。普段はどうとも意識しない妹の評価をほんの少し上方修正するキャーリサである。
「…………」
談笑している女達、ワインのグラスを合わせる男達、踊っている男女――その全てが縁のないものに感じる辺り、こういったものは本当に自分に合わないのだろう。こんなだだっ広いホールで壁の花をしてるより、執務室で丁々発止のやり取りをする方が余程楽だと思う。それでも今日だけはこの場に居なければならない、なぜなら、
「おめでとうございます、キャーリサ様」
「キャーリサ様、この度は本当にお慶び申し上げます」
「ありがとう」
今日は自分の誕生パーティーなのだから。無駄に綺羅びやかなお菓子の塔も、華やかなオーケストラも、全て今日は自分のためのもの。だから、キャーリサはなるべくホールの中央にいるようにして、ため息をつくのもほんの一瞬にして、少しわざとらしい愛想笑いを浮かべ続ける。元々愛想笑いなど性に合わないが、かと言って心の底から笑えたことなど殆どない。笑みを浮かべれば自然と余所行きのそれになってしまうのは致し方ないことだろう。
(……こういうのはちゃんとしとかないと士気が下がるし)
好き好んでやっていることではないが、しかしこういったことが王族の責務の一部であることぐらい流石に理解している。けれど好悪の感情というのはそういった理性を越えて起こるものだ。
(めんどーだな)
パーティに対しても自分の性分に対してもまとめてそう思いながら、キャーリサはまた後ろから近づく気配に振り返って愛想笑いを浮かべる。
「酷い顔ですね」
だが、かけられた言葉は祝いの言葉ではなかった。キャーリサはさっさと顔に張り付いた笑みを引っ剥がす。相手は確認するまでもなく騎士団長だった。気障ったらしい大げさなタキシードが騎士のくせにやけに似合っている。
「お前……主役にそれはないだろーが」
「主役の割には浮かない顔でしたので」
あぁ言えばこう言う、涼しい顔をして差し出されたグラスを手で制して断ると、キャーリサはため息をついた。自然と漏れたそれを、しかし何故かキャーリサは止める気にはならない。何だかんだでこの男を相手にするといつもの調子が出てくる。
「私がこーいうのが得意じゃないのはよく知ってるだろーが」
答えると、騎士団長は肩を竦める。何のことはない、周囲に溶け込んでいるだけで、彼もこういった空間がそこまで得意なわけでもないのだろう。流石にキャーリサより幾分か慣れはあるようだが。
「何か召し上がられては?」
「……平等に食べるのは無理だし」
キャーリサは会場を見渡しながら言う。大広間中にサーブされた料理は、たとえ一口ずつであったとしても食べきるのはとても不可能な量だ。けれどかと言ってピックアップして食べると色々なところに角が立つ。おかげでキャーリサは会場に入ってから何も口にしていない。一応平等に料理を褒めて回ったきりである。と、まさにそのタイミングで腹が鳴る。
「失礼」
笑うな、とキャーリサが言う前に口元を抑えた騎士団長は笑いを噛み殺していた。笑われるようなことをしてしまったきまりの悪さに、キャーリサは騎士団長との会話からさっさと抜けだそうと背を向け――たところで、唐突に腕を引かれる。

 それは豪奢なカーテンに紛れた一瞬。
 ほんの少しだけ口元に触れた――甘い甘いチョコレートと痺れるようなアルコールの味。

 カーテンの中にキャーリサを隠すようにしながら、騎士団長はウィスキーボンボンで汚れた指をハンカチで拭う。こういうことをサラッとやってのける男だから、本当に油断ならない。
「酔えば、気が紛れるかと」
「……この程度で酔うわけないだろ」
キャーリサが呟くと、騎士団長は苦笑した。
「酔うまで続けても?」
あぁ言えばこう言う、けれど頷かなければこの男はこちらの気持ちを中途半端に汲んでさっさと離れるに決まっている。キャーリサは口元を拭うとなるべく不機嫌な顔をして小さく頷いた。


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通行止めは冬コミ原稿でせこせこ書いてるからネタが(ry
ということで騎士団長×キャーリサ様…ごめんなさい、趣味全開でごめんなさい…
っていうかこの二人別に公式ではカップリングでも何でもないよなー…orz


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