パキッ、と足元から音がして、次の瞬間、打ち止めが飛び上がるのが見えた。
「いたいいたいいたいたいたい!!ってミサカはミサカは、」
片足でぴょんぴょん跳ねつつ、痛みを発散させようとしているのか、打ち止めは喚く。忙しなく飛び跳ねて移動する打ち止めを避けつつ、一方通行は床にしゃがみ込んだ。そこに散らばっていたのは、携帯電話――だったものの残骸だった。


 一頻り痛みで涙目になった後、打ち止めは更に涙目になっていた。原因が目の前の壊れた携帯電話であることは間違いないだろう。
「う、うぅ……ってミサカはミサカは泣きそうになってみたり」
取り合えず目に付いた破片を全てかき集めてみたものの、元に戻すことは到底無理だろう。何せ、散らばっていた欠片の数は両手の指の数をゆうに越えている。
 一方通行は頬杖をつきつつ視線を逸らした。彼女が携帯電話を踏んづけてしまったのは、ある意味一方通行にも原因があった。いつものように何の脈絡もなく勢いよく抱きついてきた打ち止めを、いつものようにかわそうとした矢先の『事故』だったからだ。
「いつまでも泣いてンな。データは生きてるかも知れねェだろ」
諭すように言いつつ、一方通行は一応見た目は壊れていないように見えるデータカードを摘む。小指の先くらいの大きさなので、見つけるのに少し苦労した。技術が進化していくのは良いが、何でもかんでも小さくしすぎると、逆に不便なこともある。一方通行はそのデータカードを自分の携帯電話に挿入した。反応は――あり、ロックが掛かってはいるが、データは生きているらしい。ほらよ、と一方通行は打ち止めに携帯電話の表示を見せる。
 だが、打ち止めは相変わらず浮かない顔のままだ。一方通行はため息をつく。
「……買い換えりゃイイだろォがよ……」
そう呟いた瞬間、打ち止めは無言で立ち上がった。一方通行はわけが分からずに打ち止めを見るが、彼女は涙目のまま、くるり、と踵を返して、そのままリビングを出て行ってしまう。
「………………なンなンだよ」
後には、頬杖を外すタイミングを失った一方通行と、どうしようもなく壊れた携帯電話だけが残された。



「あら、それはキミが悪いわね」
『それとなく』話をすると、芳川はそう切り返してきた。思い当たる節がある、という風に一度首肯して、芳川は意地悪そうに笑う。
「なンでだよ」
憮然とした表情で一方通行は言う。あれから少し考えてみたのだが、どう考えても自分には落ち度はないはずだ、と一方通行は思う。だけれど、泣きそうな顔をしていた打ち止めの表情にほんの少しだけ怒りが混じっていたことが分かるくらいには、打ち止めとの付き合いは長い。
「あの子があのケータイを大事にしてたのは知ってるでしょう。それが壊れてしまったのに、買い換えれば、ってすぐに言うのはどうなのかしら」
一方通行は押し黙る。確かに、打ち止めはあの何の変哲もない、少し古い機種の携帯電話を大事そうに使っていた(この際なので、その携帯電話が、一方通行の寝顔を撮るのに使われたり、あまつさえそれをミサカネットワークに送信するのに使われていた、という事実は思い出さないことにしておく――ちなみにそれが発覚してからしばらく、一方通行は打ち止めと口をきかなかった)。普段は子供特有の大雑把が目立つ打ち止めのその行動を、一方通行は少し不思議に思っていたのだが。
「……結局壊れりゃよォ、買い換えるしかねェだろォが」
そうね、と、けれど全く同意していない声音で芳川が相槌を打つ。一方通行にだって分かっている――そういう問題ではないことくらいは。
「なンであンな大事にしてたンだ?」
「…………それくらいは自分で考えなさい」
呆れ顔で突き放した物言いをした後、芳川は、それにしてもあの子も報われないわね、と小さく呟いた。報われないのはこっちの方だ、と思いつつ、一方通行は再び考えを巡らす。
 ただの携帯電話が壊れただけなら、あんなに悲しんだりしないだろう。だとしたら、あの携帯電話には単なる携帯電話以上の価値があったのだ。その価値がどこにあったのかが問題なのだが、真っ先に思い当たるデータ、という線は、メモリーが壊れていないので、どうやら違うらしい。
(……だとしたらなンだァ? 寧ろケータイの本体が問題だってことなンかよ)
考えてもみなかったが、データではない以上、それ以外ないだろう。一方通行は打ち止めの携帯電話を思い出す。打ち止めが持つには少しごつくて、型落ちした古い機種だった。そう、ちょうど一方通行が持っているような――
「!?」
一方通行はよくよく自分の手元の携帯電話を眺める。それから、テーブルに広げたままになっている打ち止めの携帯電話の残骸を見る。
 というか、そのものだった。一方通行が持っている携帯電話と、打ち止めが持っていた携帯電話は、色以外違いがない。
「…………ッ!!」
つまり、お揃いというやつだったらしい、という事実に気づいた一方通行は愕然とする。更に、それを打ち止めが大事に使っていた、ということを思い出す。
 恥ずかしいやら、何だかもやもやするやらで、一方通行は頭を抱えた。知らないところで、いつもの日常の中で、そんな風に想われていたことが――
(なンだそりゃ……)
 顔を上げると、部屋から出て行くところだった芳川が、ようやく気づいたか、とでも言うように笑みを残してった。


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一方さんって生きていくとか身を守るとかそういうのに必要なこと以外の情報っておざなりっぽいなぁ、と
お揃いに気づかない一方さんとか普通にありそうだと思うんですがどうですか
でも原作では一方さんはケータイ持ってるけど、打ち止めは分からなかったような……捏造すいませ(ry
更に甘い後日談のプロットがあるので、それは次回更新にでも
ということで、続きます


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