探してみればあるものだ。キッチンの奥の戸棚にあったお菓子の本を引っ張りだして、一方通行は思案にくれていた。確かホワイトデーフェア、と冠されたショッピングモールの売場からひたすら甘い匂いがしていたはずだ。
(やったらめったら甘い匂いさせやがってよォ)
思い出しただけで胸焼けがしそうになって、一方通行は慌てて思考を中断した。まぁ、とは言え方向性は決まっていた。恐らくホワイトデーには何らかの菓子を渡せば良いのだろう。
 ちなみに。一方通行が手にしている件の本は、バレンタインデーにチョコレートを作ろうとした打ち止めが買ったものだ、ということを一方通行は知らない。
(……ナニを作ったモンか)
材料が手元にないもの、器具が手元にないもの、工程が難しそうなものは却下だ。それだけで大分出来るものは限られてくる。取り合えず一方通行は冷蔵庫と戸棚を調べてみた。
(オイオイ……)
卵、品切れ中。バター、瀕死。小麦粉はどこにあるか分からない。リキュール? 何だそれ。結論――お菓子作りに使えそうだと一方通行が判断できたのは砂糖だけだった。白い砂糖と茶色い砂糖があるが、所詮砂糖は砂糖だ。
(…………砂糖だけで出来るモンがあるのかよ……ン?)
パラパラと本のページを捲くっていると、まさに『材料:砂糖・水』と書かれたページに行き当たった。『お子さんと一緒に楽しく作りましょう』というでかでかとしたキャッチフレーズを無視して、一方通行はレシピに目を通していく。それは拍子抜けするほど簡単なお菓子だった。
(まァ、これでイイだろ)
こんなにシンプルなものなら、まず失敗することはあるまい。それに短時間でできる方が他の同居人に見つかる危険性は低くなる。一方通行はぐるりと周りを見渡した――誰もいない。
「……やるか」
一方通行はキッチンの鍵を施錠した。


「ほらよ」
投げるように包みを差し出すと、打ち止めは満面の笑みを浮かべてそれを受け取った。丁寧に包装してあるのは手作りというのが存外恥ずかしいものだ、ということに後から気づいて、外で買ったものと何ら遜色ない状態にすることで店舗で買ったように偽装しようとしただけであって……別にそれ以上の意味はない。
「……何かな何かな?ってミサカはミサカは豪快にラッピングを解き放ってみたり!」
「…………オイ」
ちまちまとそこそこの時間をかけて頑張った成果が一瞬にして破れ去っていくのを見て、一方通行は思わず呻き声を上げた。……せめてもうちょっと眺めてからにしろよこのクソガキ。
「わぁ!」
だがそんな思考も、打ち止めの歓声にかき消されてしまう。ビンの中に個別包装して包んでおいたのは、金色の飴だった。ベクトルを操作して色々な形にしてある。星型、球形、立方体、八面体――ちなみに意地でもハート型にはならないようにしたのが最後の抵抗だった。
「……これって、飴?ってミサカはミサカは期待に満ちた目であなたを見上げてみる」
「チョコレートにでも見えンのかよ、クソガキ」
深くは考えずに一方通行は答えた。

 飴はお付き合いOK――その意味を知って一方通行が愕然とするのは、また別の話。



【candy disco/End 1】


inserted by FC2 system