手に入れた番号・アドレスは全部で4つ。かけた電話は全部で3回。
 これまでの戦績を思い出して、浜面仕上はため息をついた。

『どうしたのよ? あぁ、それ。簡潔にまとめて、早くね』
……急に簡潔にまとめろって言われても……まぁ5分もかかった俺も悪いかもしれないけどさ。
『で、結局何? ……その程度なら結局、メールで伝わるわよ』
挨拶もなしに電話終わらないでくれ、切れる音で耳鳴りがしただろうが。
『浜面超最悪です。映画見てたんですから、ちょっとは空気読んでください。で、用件は? え、それだけですか? 超時間の無駄でした』
一緒にいるわけじゃあるまいし、空気なんぞ読めるわけがない。

 浜面は液晶画面を見下ろした。表示されている名前は滝壺理后。『アイテム』の最後のメンバーにして、大能力者の一人。傍若無人な人間の多い『アイテム』のメンバーの中では間違いなく良心派だが、何を考えているのか掴み所のないところもある――そんな少女だ。何となく連絡を最後に回してしまったのは、どうすればどういう反応が返ってくるか、未だに掴めていないから、というのが大きい。
「……いや、まぁでも、覚悟決めるしかないんだよなぁ……」
個々の繋がりがそんなに濃くはない――否、有体に言ってしまえば薄い『アイテム』における連絡役は、専ら浜面だ。4人にメールを送って都合を調整したり、その他諸々の雑事を一挙に引き受けている。これが意外にやることが多く、浜面の日々は現在多忙なものになっている。
(……メールで済ましちまおうかな)
だが、今回の連絡は枝葉の情報が多く、文章で書くのが面倒な類のものだ。話す方が楽は楽だったりする。まぁ――ちゃんと上手くまとめられていれば、の話だが。……つい十数分前に聞いた麦野の声音が浜面の脳裏に蘇る――あれは本当に、対面してなくても冷たい視線が分かる怖さだった。
「いや、もう既に3人かけたんだから! いける! いけるって俺!」
頭をぶんぶん振って恐怖を振り払い、自分を勢いづけるように大声で言うと、浜面はボタンを操作して電話をかけ始める。
(頼む、出ないでくれ……!)
さっきの勢いとは裏腹に、何故だか出ないことを願ってしまう浜面。しかし、無情にも呼び出し音が2回コールされたところで、ブツリ、と相手が出る時特有の音が聞こえた。
「……はまづら?」
「お、おう」
何で分かった、と一瞬思ったが、良く考えれば携帯電話のサブディスプレイにでも表示されたに違いない。浜面は少し咳払いをして間を取る。すると、珍しく今度は滝壺の方から話を促してくる。
「どうしたの?」
「いや、まぁ……その、」
「まだ、仕事ちゅう?」
「あー……うん」
 まぁ仕事と言ってもデスクワークが中心で特に体を酷使したわけでもなし、しかも今立ち上げているパソコンのディスプレイには、次の作戦につかう車や必要となるであろう武器の情報のページも開いているが、同時にエロサイトのページも立ち上がってたりする。名誉の為に言っておくが、最前面に表示されてるのは襲撃する予定の建物の場所を示した地図だ。なので、エロ動画のページが3つ開かれているのは許してほしい。
「遅くまで、おつかれさま。無理しないでね、はまづら」
(……うわぁ……)
純粋に気遣う滝壺の声に良心の呵責を覚えた浜面は、取り合えずエロサイトのページをまとめて3つ閉じた。ごめん、ちゃんと仕事するよ俺、そう浜面は心の中で謝って、早速用件を告げる。
「……あ、えぇとさ、次の仕事の話なんだけど、」
「……あ、うん」
途端に少し滝壺の声が曇った気がした。浜面はパソコンの画面を操作しつつ、滝壺に話しかける。
「? どうした? どっか具合でも悪いのか?」
よし、これでエロ動画のダウンロードもキャンセルした。浜面は一仕事終えた、とディスプレイから目を離しつつ言う。
「……どうして?」
「どうしてって、声聞けば分かるって」
「…………そう」
微妙に間があった後、滝壺が言う。その声はとても柔らかくて。
 別に隣にいるわけでもないのに、彼女がいつものぼんやりとした顔で、それでも笑ったのが分かった気がした。


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乙女心を読めないところが良くも悪くも浜面の魅力の一つかと
仕事中にエロサイト立ち上げる浜面とかあるあるだと思うんですがどうでしょうかね


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