目の前には一枚のメモ。英国第三王女・ヴィリアンは深々とため息をつく。さっきから、えい、だとか、とう、だとか、大よそ王女らしからぬ掛け声で気合を入れつつ押したボタンは、全部で11個。後は通話ボタンさえ押してしまえば、相手に繋がるはずだ。
 自室で休んでいたヴィリアンの元にメモを置いていった騎士団長は、ウィリアムもあまり電話に慣れていない、というような趣旨のことを言っていたが、そういうことが問題なのではない。相手に対する心持ちが問題なのである。
 “本日はお日柄も良く”、“お元気ですか”、“そちらはどうですか”。色々な言葉が浮かんでは消え、頭を混乱させていく中、視界の端で時計の針がかちり、と動くのが見えた。もう数分もすれば、また公務に出なくてはならない。
「………………え、えぃ」
まるで戦いに臨むかのような真剣な顔で、第三王女は覚悟を決めた。


「……貴様は、何を弛んだ顔をしているのであるか」
そわそわしている騎士団長を咎めるように、ウィリアムは眉を寄せた。振り返った親友の顔は真面目ぶろうとしているようだったが、残念ながらにやにやした表情は全く隠れていない。しがない傭兵の身は比較的時間に自由が利くものの、騎士団長の立場ではそうもいかないだろう。なのに、呼び出したかと思えば、さっきからずっとこの調子である。
「いや、そろそろだと思ってな。マナーモードは解除してるか?」
「何であるか、それは」
聞きなれない単語に、ウィリアムは訝しげな顔をしてむっつりと答えた。騎士団長はこれで割とデジタルにもある程度の素養があるようだが、ウィリアムはそういったものには殆ど縁がない。自然、二人の間でそういった関係の話になった場合、ウィリアムが聞き返すことが多い。
「お前、さっき説明しただろう……って、電話はどこへやった?」
言われて、ウィリアムはさっき騎士団長が押し付けるようにして渡してきた小さな機械――だったものを取り出す。電話はボタンの部分がひしゃげ、筐体は30度ほど捩れていて、見るからにもう使えません、という代物に成り果てていた。
「……これであるか」
「!? 何をどうしたらこうなるんだ!? 渡したのはつい数分前だぞ……残骸じゃないか」
大げさな身振りで額に手を当てた騎士団長は、呆れたように呻いた。何をどうしたら、と言われても、どう扱ったら良いのか検討もつかず、言われたとおりに操作していたら、いつの間にかこうなっていたのだが。
「……機械というのは、案外脆いものなのだな」
「加減をしろ、加減を」
傍らの親友は深々とため息をついた。


『おかけになった番号は、現在使われていないか電源が入っていないため……』
「……………………」
「? どーした、元々暗い顔を更に暗くして」
「………………あ、ああああああの大馬鹿者ッ!!!!!!」


-------------------------------------------
絶対ウィリアムは機械音痴だと思うんだぜ
ウィリヴィリがあんな感じだから、騎士団長は良くいる世話焼きババアみたいな感じにならざるを得ないと見た
……可哀想に……(フラグ立たない的な意味で


inserted by FC2 system