女の身だしなみ、と云うには打ち止めのそれには穴がありすぎた。


「オイ」
洗面所から出てきたところを捕まえて声を掛けると打ち止めが振り返る。その格好を見た途端に目を覆いたくなった。スカートに皺が入っているのは落ち着きのない動きたい盛りの彼女だから仕方がないとして、上が酷い。掛け違えたシャツのボタンをそのままにして学校へ行ったのだろうか。
「毎日鏡のドコ見てンだよ……」
「? 髪の毛! はねるから!ってミサカはミサカは主張してみる」
確かに学校に通うようになってからしばらくして、彼女はやたらと髪型を気にするようになっていた。ピンと一本立っていた髪の毛を、今は均らそうと必死のようだ。ただ、流石に玄関先に全身鏡があるのだからもっと気にするべきところはあるわけで。
「……阿呆」
ため息を付くと、不満そうな顔で打ち止めが見上げてくる。その視線を避けて打ち止めの格好をもう一度眺める。
 掛け違えているせいで、打ち止めのシャツは左右を合わせる中心部分に大きな隙間が空いてしまっている。中に着ているキャミソールがチラチラと見える状態は、見てる方を落ち着かない気分にさせた。まだ衣替えの時期ではないので一応ブレザーを羽織って行ってるようだが、シャツ一枚になってしまう夏の時期もこの状態かもしれないと思うと目眩がする。
「オマエなァ、ボタンくらいちゃんと掛けられるようになれよ、クソガキ」
指摘すると、気不味そうな顔で打ち止めは胸元を隠した。予想しなかった仕草に一方通行は少し面食らう。慌てて騒がれるのは五月蝿いが、かと言って急にこんな態度を取られても落ち着かない。
「ちゃ、ちゃんと出来るもん……ってミサカはミサカは……」
「あァそォかよ」
何となく早く話を切り上げたくなって踵を返そうとすると、くいっと袖が引かれる。振り返って面倒だという視線を向けても打ち止めは引こうとせず唇を開き、
「証明するもん、ってミサカはミサカはあなたを呼び止めてみたり」
そう、言った。



 何がどうしてそうなるのか分からないが、一方通行は打ち止めとソファで向き合っていた。目の前の打ち止めは俯いたまま緊張した顔を隠さずに手をもじもじとさせている。
「なンの真似だよ」
「っ」
聞くと、ビクリと打ち止めは体を震わせた。別に怖がらせるつもりもなかったのだが、そう過剰に反応されるとこちらもどうして良いのか分からない。
「ひ、人のなら、上手く出来ると思うの、ってミサカはミサカは思案してみたり」
「どォいう理屈だよそりゃ……」
返すと、打ち止めは沈黙して――そのまま一方通行のシャツに指をかける。その性急で突拍子もない行動の意味が分からなくて、一方通行は思わず打ち止めの手を掴む。
「あのなァ、……オマエどォした?」
「……と、」
「あァ?」
「わざ、と……だよ、ってミサカはミサカは呟いてみたり」
その言葉の意味を認識する前に、打ち止めの手がそっと一方通行の指を服の内側に導いた。薄い布越しに触れた、浅い呼吸に上下する胸が、目の前の少女の存在にセクシャルな意味合いを上書きする。俯いた彼女の表情は分からない――けれど赤くなった指先が彼女の想いを伝えていた。

 どうしたら良いのか、分からない。このまま手を進めたら良いのかも、そもそも何と返したら良いのかも。一方通行は動けない。

「…………、」
焦れたように打ち止めのもう片方の手が、震えたまま一方通行のボタンを一つ外した。答えを請うように、死刑台に登るように、彼女の指はやや乱暴に進む。やがて一方通行のシャツのボタンは総て外れて、打ち止めは意を決したようにまっすぐな視線を向けてくる。
「ミサカ、は……」
つっと、指が胸元を撫でる。鼓動の上に重ねられた体温が、やけに鮮明で。打ち止めの静かな声が鼓膜から体中を浸すように響く。
「あなたの、ココが」
欲しい、と――小さな声で打ち止めが呟いて。

 理性の箍が外れる音を、一方通行は初めて聞いた。



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タイトルはそのまんまボタン掛け違いのボタンと、スイッチ入っちゃった的なボタンです
エロらなくてごめんなさい、裏へ(続きません
あ、っていうか何気に打ち止め中学生未来パラレル注意な!(遅


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