『これは反応に困るにゃー……』
『ちょ、どうなってんのよ、譲りなさいよ!』
『あれ、案外出歯亀なんですね、お二人とも』
『一番良い場所取っておきながら良くそんな、』
『押すな、うわバレるバレるバレる』
途端にガタリ、と大きな音がして一瞬クローゼットの中の三人は固まる。恐る恐る隙間から部屋の中に同時に目をやった三人の視線の先には、学園都市最強と恐れられる白い悪魔と、見慣れない少女が一人。明るい茶色の髪に活発そうな表情。水色のキャミソールが良く似合っている……が、家族にしてはあまりに似ていない。それでも学園都市最強――一方通行が彼女に向けている視線は、温かかった。どうやらこちらには気づいてないらしく、少女と一方通行の会話は続いている。聞こえた内容は……敢えてもう何も言うまい。
『うわー、何あれ。デレッデレ……気持ち悪』
『……なまじ「普通です」って顔してるつもりだから性質が悪いな』
『あれー、あのちっちゃな子、どこかで見たような……』
小さなクローゼットは三人で入るには狭苦しい。声を潜めて話しながら、彼らは誰からともなく視線を隙間の外に向けて三者三様に肩を落とした。なぜこんな事態になってしまったのだろう、と。


 始まりは集合時間に一方通行が来なかったことだった。
「……遅いな」
時計にチラリと視線をやった土御門が言う。昨夜、遅くになってではあるが、メンバー全員にこの時間に集合と伝えてある。現に結標も海原も集まっているのだから、伝えた時間が間違っているということはまずないはずなのだが。
「……サボりかしら」
今日は一週間後の"仕事"のブリーフィングの予定だが、元々個人プレイの多いグループでは形だけになってしまっている感もある。送られてきたデータを読めば済むだけ、と言われても否定出来ない。海原もそれに思い当たっているらしく苦笑した。
「まぁ、集められた理由が理由ですしね」
「要するに"首輪付き"って確認したいだけでしょう……馬鹿馬鹿しい」
言って結標は自嘲する。守るものが直接的に学園都市の監視下に置かれている彼女は、滅多なことでは上には逆らえない。こうやってこれ見よがしに胸糞の悪い時間の無駄な措置を取られても当面大人しく従うしかないのが実情だ。他のメンバーがどういうスタンスなのかは知らないが、どうせ似たり寄ったりなのだろう。そんな中、こうも簡単にするりと好き勝手な行動を取られると苛ついてしまう。
 結標の物言いに同調してかしないでか、土御門が軽くため息を付いて立ち上がった。
「何にせよ全員集合が前提だ。面倒だが迎えに行くか」
億劫そうな顔で結標がそれに続き、最後に海原が苦笑しながら肩を鳴らして立ち上がる。まぁ連れてくるだけなら十分もかからないだろう――三人ともそう思いながら。


 そして結標が能力を使って三人で飛んだ先は――何故かクローゼットで。しかも目の前で学園都市第一位が何やら幸せお花畑状態で――どうしようもなくて今に至る。
 クローゼットの雰囲気からしてそこそこ良い部屋に住んでるようだが、それでも流石に人間を、しかも三人も収納出来るほどの広さはない。窮屈なので早く出たいのは山々なのだが。
『……流石にここからいきなり出て行くのは……』
『なし、でしょうねぇ』
三人は目の前で繰り広げられている会話に耳を澄ませる。

「こっち来い」
言葉こそ命令形の素っ気ないものだが、一方通行の声音は三人が聞いたことがないくらいの柔らかいそれだった。少女もそれに戸惑っているのか、口ごもっている。
「……え、えぇと、」
「アホ、今更何意識してンだ」
クローゼットの隙間から、少女が一方通行に手を引かれて倒れ込むのが見える。そのまま一方通行の声のトーンが低くなって、何を言っているのかよく聞こえなくなる。恐らく二人の距離が近くなって声を大きくする必要がなくなったのだろう。それが耳元で囁いているからなのか、額でもぶつけ合っているからなのか知らないが。

『ちょ、こっちから全然見えないけどどうなのよ!?』
『同じく。……羨ま……じゃなかった、何が起こってるのか考えたくないな……』
位置的に全く二人のことが見えない土御門と結標が言う。少し視点がズレる海原は気まずそうに視線を逸らしながら答えた。
『ここからだと足しか見えないんですけど……いや、えぇと、足しか見えない方がマズイです、色々と』
海原のその言葉を、土御門と結標が問いただそうとしたその瞬間、少女の声が上がる。

「あ、ぅ……んっ!!」

『『『!?』』』
三人は視線を交錯させる。誰ともなしに赤くなった顔でお互いが何を連想したのか悟った彼らは――気付かなかった。学園都市第一位が無造作に立ち上がって、彼らの潜んでいるクローゼットの方に視線を向けたことに。

「少し待ってろ」
「……ぇ、ぅ、」
潤んだ瞳で少女は一方通行を見上げる。上気した少女の頬を軽く撫でると、一方通行はそのままスタスタとクローゼットに歩み寄った。三人がそれに気付いたのは、クローゼットの隙間から挿す光が一瞬陰ったまさにその時だった。

 三人は、逆光を背にして笑う悪魔の口元だけを見た。

『『『!!』』』

 彼らがその後どうなったのかは――言うまでもない。


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グループの人たちが通行止め出歯亀してほしかっただけです
クローゼット内図解↓
土御門・結標「何が起こってんのぉおおお!!」
海原「うわ、幼女の爪切りとかしちゃってんのかよ! このロリコン!」みたいなすれ違い
続きは皆さんの自由な想像力にお任せいたしますぜ…


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